新潟の映画野郎らりほう

LAMB/ラムの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.5
【鬼胎】


荒涼とした丘陵地は荒んだ心象の顕現であり、周囲を取囲む高い山嶺は社会を拒絶する壁である。霧と靄と霞み懸かった寒色曇天な気象も社会的視界不良と自己位置認識の喪失を顕す。
その上で、自然と生命に対する畏怖と人類の罰が渾然と為った世界―。

畜産/第一次産業の支配管理/従属の関係性も、見方を変えれば「動物や根菜側が人を従事させている」と言えなくもない主従逆転の視点。
土着文化や人類(畜産)史をも想起させうるのは 寡黙な筆致故だろう。



“それ”の出産場面。画面下方に産まれ落ちた“それ”を凝視した夫婦は、その後顔を上げ 互いの相貌を見合う ― “それ”を一切映さず 演者の相貌のみで語る。無論科白なぞ無い。
演者の視線が画面外の何処に向いているのか ― イマジナリーラインが秀逸なカットバック。

上記場面以外にも常に画面外を意識させる演者(及び動物達)の視線と そのカットバックは、単体カット(=それぞれの深い孤立)と、そのカットバック(=全くの異質と連なり繋がる鬼胎)のみで ストーリーを観客に感取しうる強靭な映画話法で漲っている。




《劇場観賞》