もものけ

モスル~ある SWAT 部隊の戦い~のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

イラクのモスルで、ISと銃撃戦になり孤立無援となった新米警官カーワは、SWAT部隊に救出される。
身内を殺されたかと問われ、そうだと告げるカーワへ、隊長ジャーセム少佐に部隊への参加を要請され、カーワはSWATと共に廃墟と化すモスルでの作戦へ駆り出されるのだった…。





感想。
全編アラビア語で製作されたらしく、たまにアラブ圏の映画にも面白い作品があるんだよねと思っていたら、アメリカ資本の作品に驚き、どうりでクオリティが高いと思ったミリタリー・アクション映画。

廃墟と化しているモスルでの撮影なので、ロケーションのリアルさがそのまま映像として伝わっており、その戦争の激しさを感じ取れます。
難民のエキストラを、かなりの数を投入していたり、無数の遺体を映像化していたりと、社会派としてのメッセージが伝わる演出と、謎の部隊SWATの作戦を描きながら、虚構と現実を入り混じって現在のイラクの惨状を表現しております。

イラクにおける複雑な人種と勢力、宗教の難解さに混乱してしまうほど、同包同士で殺し合いをしているように見えてしまいます。
全編を通してアクションをメインに、道中出会うドラマを交えるストーリー展開なのですが、アクション・シーンは迫力があり、痛々しい残酷描写も。
倒した敵から物資や金を奪うSWATは、盗賊のようなイメージで、治安を維持する為の警察活動とは一線を画す、政府公認の殺人集団に見えて正義のヒーローとはとてもいえない存在を印象づけます。
そして新米警察である主人公の視点から、次第に変わってゆく姿に人間性を伺える演出となります。

この複雑化したイラク国内の姿として、7.62ミリ弾とNATO弾と呼ばれる5.56ミリ弾が混在している皮肉的なシーンに失笑してしまいます。
ISやアルカイダ、PMU、ダーイッシュ、有志連合、果ては外国のイラク兵站部隊や米軍などが入り混じって、観ている側からはもう何が何だか分からない状況です。
しかし、そんな複雑化された場所でも、武器とタバコが通貨という共通点がまた皮肉です。

SWATの作戦が謎のまま展開するストーリーがスリリング。
とても娯楽アクション映画とはいえない、ナイフで滅多刺しするシーンなど多数ある重苦しい雰囲気が、実話ベースの作品というシリアスさを出しています。
冷酷無比なSWAT隊員を家族の元へ送り届けるというオチは、感動的というよりも、分断された家族の悲劇として、イラクの国家としての姿を象徴させるメタファーです。
戦争で消息不明になった夫を待つ妻が、どこかの男に囚われて強制的に子供を孕ませられるアラブの蛮族的行為は、家族を持つことが一人前の男であるアラブでは普通のことですが、結婚への意識感覚が違う我々からすると略奪婚でしかありません。
なんとも複雑な気分にさせられる再会シーンが、感動的ではない何かを考えさせられる作品のテーマではないでしょうか。

ラストシーンで主人公が立ち上がるショットに、彼らの最初で最後の"正義"を見た気がします。

とても描き方がうまかった作品で、カメラワークと早いカット割りで飽きさせることなくラストまで疾走するSWAT隊員の物語へ、4点を付けさせていただきました!

アメリカ映画でアラブ圏を言語まで表現した、珍しい作品といえます。
もものけ

もものけ