イライライジャ

リコリス・ピザのイライライジャのネタバレレビュー・内容・結末

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

レビューが80件ほど溜まっているが初日に観たので先にこちらを。PTA作品は全作鑑賞済み。

爽やかな青春恋愛映画と言われているが私はそうは思わなかった。
初対面で「将来の夢は?」と聞くのは何もない20後半女性にとっては残酷な質問だ。

まずゲイリーは、15歳にして野心的な起業家であり、持ち前の自信とビジネススキルを活かして若くして成功を手にしている。一方アラナは、25歳で自身の人生に不満を持ち目標もなくフラフラしている。

この2人の大きな違いはそもそも生まれの部分が大きい。家庭が裕福で自由なゲイリーと、厳格なユダヤの家庭に未だ縛られるアラナ。
青春を終えてすでに大人の世界に踏み込んでいる15歳と、青春できないままで大人になりそこねた25歳。
この対比を現すための年齢差なのではないかと私は思う。

アラナは自ら素晴らしい人生を掴みにいこうとせず、常に誰かに乗っかるばかり。その上自分じゃない何者かを演じている。だが随所で才能を発揮させている。なのに受動的なせいで結局それ止まりなのだ。
それに反してゲイリーは自分は優れていると過信し、機会主義的な行動を常に取り、目標達成するとまた次の目標に取り掛かる。

アラナにとってゲイリーは、自分が持ってないものを全て持っているが、唯一ゲイリーが手に入らないものがアラナだ。好きな女を手に入れるという目標を達成させたくないわけだ。
つまりこれがアラナとゲイリーがビジネスパートナーでありながら、常にすれ違っている要因。2人の壁は年齢ではなく、皮肉なことにビジネスとプライドなのだ。

散々そんな2人を見せておいて、ラストでお互いが最優先だったはずの仕事を放ったまま共に走る姿には心揺さぶられる。
冷静に考えると未成年との恋愛なんて犯罪でしかないが、それ含めてアラナは周囲の目を気にしなくなったことが分かる解放的なラストカット。

トラック運転中にアラナが「28……25歳よ」と年齢を間違えるシーンがある。実は28歳かと思っていたがアラナ役の役者の撮影当時の年齢らしくナチュラルに間違えたんだとか。なのにNGにせず起用してしまうことを考えるとやはりアラナは年齢詐称してるかもと思わせる演出になっている。

『アメリカングラフィティ』『リッジモンド・ハイ』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などが近しい作品としてよく挙がるが、20代後半の焦燥感がうまく描かれている点では『フランシス・ハ』が近い気がする。

ゲイリーは実在する元子役のプロデューサーであるゲイリー・ゴーツマンがモデル。ホールデン、ジョエル・ワックス、ジョン・ピーターズも実在する人物。
本作は現実とフィクションが混ざっており、当時の風情や時代背景に懐かしさを感じる作りなのが面白い。まあ70年代に懐かしさを感じられないことは難点なんだけども。

ゲイの市長ジョエル・ワックスについてだが、実際は当時恋人などいない。
73年時点でゲイを公言してる政治家は存在せず、77年にハーヴェイ・ミルクが初めてゲイを公言しホモフォビアに射殺されている。
そしてジョエル・ワックスがカミングアウトしたのは90年代。
本作のワックスの外見は明らかにミルクを意識しており、恋人役ジョセフ・クロスも『ミルク』でゲイを演じているところを考えるとおそらくハーヴェイ・ミルクもモデルにしており、12番の怪しい男にのちに殺されることを暗示しているのかもしれないと思った。(さすがに考えすぎだが。)

ちなみにリコリス・ピザはレコード(LP)の俗語。当時リコリスピザというレコードのチェーン店があったらしい。リコリスは黒い渦巻き状のグミのことで、それを潰すとレコードのピザみたいな見た目になるのが由来じゃないかな。なぜこれがタイトルなのかは分からなかったが。

本作は世界中でかなり賛否が分かれている。正直私も期待以下だった。どれがメインテーマなのか分からない。石油禁輸などの当時の出来事も弱い。恋愛映画と言えるのかも微妙。当たり前だが、やはり未成年との恋愛というのはどんな理由であれ肯定できるものではない。特にアメリカでは厳しい。
70年代を筆頭に年上女性と若い男の禁断のエロティックロマンスが大量に作られたが、それらとは作りがまるで違う。良い意味でも悪い意味でも。
ライトな作風ではあるがやはりPTAなので一筋縄ではいかない何かはある。