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リコリス・ピザのLATESHOWのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.0
何かいいことないかな
何かいいことおまへんか?

時代のシラケた空気を胸いっぱいに吸って
ああどうしようかな、明日は何をしようかな。

ニキビづらの童顔は大人ぶってビジネスに挑戦。
承認欲求強いアラサー女は大人になりきれず
甘い汁吸いたくて振り回される。

シラケた空気におおらかなロックが流れる。
James GangだBlood,Sweat,&Tearsだの
今じゃ知らない野暮ったい曲続き。

DoorsとBowieでちょっぴりキメた気にさせといて、
長回しのカメラは理性だけではカッコつけられない
トキメキゼロのマヌケな二人を
どこまでも併走し追い続ける。

二人は走る。
関係にウンザリして終わりそうになるくせに
衝動的に相手に向かって走り出す。
大人ぶる小僧と大人になりきれない女の間に
いつしか生じた奇妙な磁力。
青天井の浮かれっぷり。
おっぱい見せてくれない苛立ち。
ゾッコンとかなんとか言っといて
他の子に目移りしてるモヤモヤ。
グレース・ケリー扱いでチヤホヤされる気持ち良さ。
意識高いつもりの自立。

ああ、ああ、ああどうしようかな。
うまくいかないな。
どうせ女だしな。
たかが知れたシャバ僧だしな。
次は何をしようかな。
なんとなく大人になってしまって
いっそ身体が重くなる前に走ろうかな。

走る映画はハズレが少ない。
マイナスからゼロへ向かう若者は
今何故自分が走っているのかすら自覚がない。
ゼロからプラスへ向かう若者は
走り出す衝動を深くは考えず
無軌道なスピードのまま着地点を遂に見つける。

イカれたスターのバイクから振り落とされ
ブレーキ外れる坂道を転がして
いい加減ウンザリしたその時に
ピンボールに弾かれたかのよう
二人の身体は自らの速度をはっきりと確認した。

映画館の前で嘘みたいに落ち合いましょう。
好きか嫌いかもよくわからない
アホでピュアな感情に今は従いましょう。

アホな僕達、やっぱり大人になりきれない。
きっといい歳こいてもこのままだろうし
100回は愛想を尽かすだろうに
また惹き合う腐れ縁が続くんだろうな。

ああ、ああ、ああどうしようかな、
クソみっともねースピード、
マジしょうもねー変化、
ほんでだれも振り返らない走り方、
私達ってなんていいかげん!!

一丁前に賢ぶるアホと大人ぶるろくでなしどもが
鈍重な身体で自らの速度を確認する瞬間。
やにわに二人が走り出してからの衝突とキスは
ブライアン・ウィルソンでも測定不能だから面白いんだ。
併走して撮るカメラに対し観ている私達は
どれだけ感情移入出来るのか。
走る映画の煌めきが実に見事に表されていた。

ゲスでピュアで世渡り上手なようで
直情傾向で嫉妬深くカッコつけらんなくて。
そんな奴らがほっとけないなら
観に行くのをオススメしますよ。

ウィリアム・ホールデン+スティーブ・マックイーンな
ショーン・ペンと
この頃ダメダメなスターをやたら演じたがる
ブラッドリー・クーパーの
70年代らしいマッチョでイカれたキャラのなりきり具合が
また最高。
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