great兄やん

ノースマン 導かれし復讐者のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

4.6
【一言で言うと】
「血は滾り愚者を屠る」

[あらすじ]
若き王子アムレートは、叔父フィヨルニルに国王オーヴァンディルを殺され、グートルン王妃を誘拐される。父の復讐と母の救出を誓い、アムレートはボートで島を出る。ところが数年後、ヴァイキングの戦士となって東ヨーロッパ各地で略奪を繰り返していた彼は、預言者との出会いを機に自身の運命と使命を思い出す...。

第35回東京国際映画祭にて鑑賞。

今イベントの中で特に心待ちにしていた今作。ロバート・エガース監督が初めてA24から離れてユニバーサルで撮った最初の商業作ではあるが、やはり商業作とはいえ彼の“色”は全く褪せてなどいなかったし、むしろ色濃く強烈で凄惨な世界観にただただ圧倒されるばかりだった。

長編3作目にして“巨匠”の域に到達しそうな勢いのある凄まじさですし、如何に彼が映画界における“信頼”と“才能”が絶大なのかが今作ではっきりと確信しましたね(゚o゚;;...

とにかく全体的における画の力強さ、特に暗闇などのダークサイドの映像表現がマジでレベチ。過去作と比べてみてもその“暗黒”の部分というのがより鮮明化されており、前作『ライトハウス』からより磨きのかかったドス黒い美しさはもはや“蠱惑”と評してもいいくらい。
北欧神話ならではの殺風景で荒々しい得も言われぬ雰囲気の描写も本格的で流石ですし、情け容赦のないエグい残酷描写が包み隠さず表現されているのも、エガース監督が今作に対する計り知れない“本気度”が見えてくる。

それにキャスト陣の演技力や表現力の“迫力”というのも言葉を失うレベルでしたし、特に復讐を誓う王子アムレートを演じたアレクサンダー・スカルスカルドに関してはもう人間というよりも“野獣”と言ってもいいくらい笑。それくらい“人間”そのもののリミッターを外しまくった演技力に脱帽でしたし、画面から伝わる気迫にただただ気圧されるばかりでしたね(・・;)...

とにかく陰惨かつ暴力的な血筋をめぐる“サーガ”に観てるこちらも“畏怖”と“恍惚”の感情が混在してしまう、圧倒的なスケールで描き切った壮大な一本でした。

彼特有のメタファーを駆使した表現技法は今作ではかなり抑え気味で、その点に関しては少し物足りなさを感じたが、ストーリーが一貫して“復讐”の事を描いているので純粋に入り込めたし単純に面白かったです。

娯楽映画におけるエンタメ性と監督が表したい作家性の両立は時にバランス感覚を失い映画の面白味そのものを無くしてしまう可能性があるが、今作ではそれを見事に傑作へと昇華した上にロバート・エガース監督の更なる“唯一無二”を極める事に成功したと思っている。


公開日は来年の1月ですが、いち早くこの傑作を観ることができた機会に今はただ感謝をしたい。
ハッキリ言って、こんな監督のやりたい放題やってしっかりわかりやすくて面白い映画を撮れる事に正直ビックリです(^◇^;)...