アタフ

イニシェリン島の精霊のアタフのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.9
「生きているうちに何かを成し遂げたい、何かを残したい」という欲求は結構普遍的な欲求だと思うし、人間誰しもが大なり小なり思っていることなのではないでしょうか。

だから、コルムの考えは一定の理解は出来るものの、自分自身を客観的に見ると確実にパードリック側の人間だということも認識させられる。
自分には芸術的な才能も作品もないし、飲み屋でくだらない会話をして、ただただサラリーマンとして金を稼いで生きていくような人間であるため、コルムの言葉には何か自分という人間を否定されたようで、苦しさを覚えた。

だからこそ、コリン・ファレル演じる困り眉が特徴のパードリック側に感情移入してしまうし、平凡な人生でもいいじゃないかと反撥したくもなる。
そもそも人類の99%はパードリック側の人間であると思うので、パードリックを否定する=選民思想的な嫌な思想すらにじみ出ていると感じてしまう。

イニシェリン島という島は架空の島の様だ。ロケ地はアイルランドのアラン諸島で風景がとても美しい。島のどの風景を切り取っても絵になるような絶景で、滑稽で子供の喧嘩のようなお話が繰り広げられる舞台としては贅沢すぎるぐらい。パードックとコルムがパブの外席で向かい合って海を背景に話し合うシーンは、イングマール・ベルイマンの『第七の封印』の死神とのチェスシーンを想起させられた。そう思うと、あの黒装束の婆さんも、『第七の封印』の死神っぽく見えてくる。

島の対岸ではアイルランドの内戦が繰り広げられている描写があり、この内戦をパードックとコルムの争いに象徴させているということなのだろうか?それにしても、この二人の争いが一体なにを意味しいているのか?見終わった後もこの映画の言わんとしていることを考え込んでしまう意味深な作品でした。
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