ウシュアイア

彼方のアストラのウシュアイアのレビュー・感想・評価

彼方のアストラ(2019年製作のアニメ)
4.3
誰もが気軽に宇宙へ旅することができるようになった未来で、ケアード高校で課される「惑星キャンプ」にB5班として参加した9名は、キャンプの最中に遠く離れたところへ遭難してしまい、食料も限られる絶望的な状況の中、運よく宇宙船を発見した9人は星々を渡って食料を補給していながら帰還を目指す、というお話。


「少年ジャンプ+」の連載作品を原作としており、少年ギャグテイストを交えた「努力・友情・勝利」がコンセプトのSFアドベンチャーという空気感で始まる。どうせ、我が強い9人の関係はぎくしゃくしていたが、テンション高めの脳筋主人公のリーダーシップの下、困難を乗り越えて仲間としての絆を築いていく、という展開だろうと予想がつく。最後まで見ても、確かにそういう話になってしまうのだが、『魔法少女まどか☆マギカ』ほどではないものの、叙述トリックなどを利用したイントロダクションの作風を裏切るシリアス、鬱展開が待ち構えており、なかなか精緻なストーリーラインは大人でも楽しめるレベルの見ごたえだと思う。

今どき脳筋キャラが主人公だなんて、とは思ったが、
クールキャラの「俺は認めないからな」からのピンチ救出劇、
主人公の突破力によるトラウマキャラの壁破壊、
というベタエピソードは物語の緩急を作り出す「守破離」の「守」になっており、意図的にしてもそうでないにしても見事な構成。

また、帰還の途中で立ち寄る惑星は、目的が食料調達となっているところを利用して描かれる惑星の気候、生態系はそれなりに考証がなされていて、説得力をもっていることも興味深い。さらにイケメン王子様キャラだけど、変態的な生物マニアのシャルス(CV島崎信長)がそこに味付けをしており、さらに面白くしている。(シャルスの役割はそれだけではないが。)さらに核心部分では文明論にも踏み込んでもおり、科学考証と合わせて知的な脚本で、ここでも作風の裏切りに遭う。

深夜放送で作風の裏切りがあるとはいえ、結局は「努力、友情、勝利」で、全体的な空気感はやっぱり子ども向け。登場人物を高校生にせず、もう少しシリアス度を『約束のネバーランド』方向、ギャグの路線を『ゴールデンカムイ』方向に寄せれば、もっとストライクゾーンが広がるはず。

主人公のカナタ役の細谷佳正さん、どうでしょう。
最近は年齢が高い役が多いこともあって、高校生にしては声に貫禄が出過ぎているような気もする。愛すべき脳筋キャラ自体が絶滅危惧種ということもあって、できる声優さんが限られているようにも思える。

あとは、『青ブタ』同様に水瀬いのりさんの演じ分けのすごさを改めて思い知らされた。
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