ウシュアイア

クロスゲームのウシュアイアのレビュー・感想・評価

クロスゲーム(2009年製作のアニメ)
4.3
あだち充の野球・青春漫画を原作とする連続50話の昼間帯放送の全世代向け作品。

スポーツ用品店の一人息子の樹多村光(コウ)は小学生の頃に幼なじみの月島若葉と1歳違いの妹で、男の子に混ざって天才的な野球の素質を発揮する青葉に憧れて野球を始めるが、小学校5年生の時に最愛の若葉を事故で亡くしてしまう。高校生になったコウは、若葉が亡くなる直前に見たという、コウが甲子園で活躍する夢の実現に向け、青葉とは若葉をめぐって犬猿の仲ながらもともに切磋琢磨し、甲子園を目指すというお話。


コウと青葉の物語は心情が少し複雑でラブロマンスとも、ラブコメディともつかない。

まず、若葉はコウにとっては最愛の幼なじみ、青葉にとっては最愛の姉で二人にとって自他ともに認める最愛の人で、二人が若葉の死を乗り越えていくという側面がある。若葉との思い出を共有して励まし合いながら前に進む関係になれればいいのだが、青葉にとってコウは最愛の姉との間に割って入る邪魔者であったし、男っぽい性格の青葉の愛情の裏返しかもしれないし、10歳の時とはいえ「(コウのこと)奪っちゃダメだからね」と言い残した最愛の姉の彼氏を奪ってはいけないという自制心の現れかもしれないが、とにかく青葉は素直になれない。青葉が素直になれないがために、若葉の死を乗り越えられておらず、本作はラブストーリーの前段階の話という見方もできる。そう考えると、青葉に言い寄る男たちがコウとの間に入れる隙がなかったのもよくわかる。

一方でコウは照れ隠しで飄々としているものの、最愛の幼なじみが最後に見た夢の実現に密かに努力する男だし、比較的自分の思いを正直に言葉と行動に示している。

コウによる若葉の夢の実現をもって青葉の頑なな態度は解かれる。里香ちゃんに勝るとも劣らない呪いの物語、失礼しました純愛物語。こうしてみると、ヒロインはやっぱり若葉だ。

ただ、終盤で若葉のそっくりさんが出てきたり、そのそっくりさんが重病人だったり、という展開は、一途な主人公コウを前にして、必要だったのかどうかは微妙。容姿の面で似せず、言動だけを似せるだけでの方がコウの気持ちを揺さぶれた気がする。

また、本作は野球特退制度による野球部強化を風刺しており、序盤は最強打者の東雄平を中心とする野球特待生チームとコウたちの「ではない」二軍チームとの対決がヤマ場。東とは試合後に手打ちをして、主人公の天才的エースピッチャーと最強4番バッターが同じチームに収まり、即席とはいえ最強チームになってしまい、それ以降は野球においてはライバルたちの線は細めで、わかっちゃいるけどドキドキハラハラはあまりない。

Wikipediaを読むと原作からの改変はあったようだが、原作のエモさと、言葉ではなく間で表現する感情の機微を再現した演出は秀逸。

青葉役はツンデレヒロインを演じさせたら右に出るものはいない戸松遥さん、飄々としたコウ役は入野自由さんで間違いない。三白眼で目つきが悪く、最初は嫌味だったが、中盤以降は頼れるチームメイト東雄平役が櫻井孝宏さん。少し前の作品とはいえ、櫻井さんがこういう役を演じるのは珍しく、抽斗の多さに驚くばかり。

(GYAOにて完走につき、編集・再投稿)
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(第1話視聴後 2021/12/02 23:21)
スポーツ用品店の一人息子樹多村光(コウ)は家族ぐるみで交流があった月島四姉妹の誕生日が同じ二女・若葉と野球好きの三女・青葉の影響で野球を始める、という話のようだ。

原作未読だったので若葉がヒロインかと思いきや第1話のラストでまさかの展開。

よくよく考えてみると、序盤でのこの展開は過去の作品でもあったのだ。また、飄々とした主人公と幼なじみのヒロインのラブコメ、主人公の覚醒はあだち充野球漫画の基本フォーマットで、本作でも崩れていない。とはいえ、主人公やヒロインが時代に合わせて立ち位置が変わっていることだ。

まず、ヒロインの青葉は男に混ざって野球をするプレーヤーである。もう、マネージャーがヒロインになる時代じゃないのかもしれない。

あだち充作品では原作漫画では饒舌なのは無粋という空気があり、主人公の心情を独特の「間」で表現し、また本音を語らないことで主人公の心情を浮き上がらせてくることが多かったが、コウはこれまでの主人公に比べて、自分の気持ちに比較的正直であることが一周回って新しい。まだ序盤しか観ていないが、主人公の語りにも注目してみたい。

ちなみにあだち充で一番好きなのは『ラフ』。アニメ化切望。
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