真田ピロシキ

恋せぬふたりの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

恋せぬふたり(2022年製作のドラマ)
3.8
第一に忌々しいオリンピックとパラリンピックに中断させられペースを乱されたのが良くなかった。これで物語への集中が少し散漫になったよ。

他者に恋愛や性的感情を抱かないアロマンティック・アロマセクシャルの男女が恋愛なしの家族(仮)として共同生活を送るドラマ。主人公咲子(岸井ゆきの)の周りには恋愛絶対主義の方々に事欠かず、第2話からして共に暮らす高橋(高橋一生)と恋人を偽装して両親や妹夫婦に紹介しなければ世間体がつかず我慢を求められる。これだけ書くと逃げ恥序盤の展開にも似ているが、本作ではあまりに無遠慮な恋愛脳攻撃に咲子がブチ切れ早々にカミングアウト。この実家の中で父だけは何ら娘を否定することなく、高橋への質問攻めにも加わっていなくて、既にあるべき姿を提示されている。理解は出来なくてもいい。セクシャルマイノリティーであろうがなかろうが、他人のプライバシー、生き方には干渉するもんじゃないと。マジョリティー様が挨拶感覚でやってることはとても失礼で、このお父さんは世間ではきっとつまらない人と思われているだろうがオメーらがおかしいんだよ。

一難去ってまた一難。咲子が一時期、そして唯一交際していた同僚のカズ君(濱正悟)。咲子と高橋の"普通"ではない関係を知ったカズ君は2人を詰問。終いには高橋に怪我を負わせてしまう。責任を感じたカズ君は高橋家に住み込んで高橋が動けるようになるまで世話をすると宣言。「何言ってんだお前バカか。さっさと消えろ。」そう思うのだけれど、根は本当に良い奴で呆れながらも高橋に説かれたカズ君は段々恋愛を抜きにした関係を理解していく。それでカズ君は恋愛なしで共同生活を送るのならば、一切身体的接触を求めないから自分でも良くないか?と咲子に提案して高橋もそれは悪くない話と認める。この一見問題なさそうな提案に対する答えが物語の発端となった咲子とのルームシェア計画を一方的にキャンセルした千鶴の存在で、実は彼女がレズビアンと明かされた時はまた恋愛関係で揉めるのかと思ったが、この場合は一緒に暮らしたら千鶴が咲子への想いを我慢し続けなくてはいけずそれに耐えられなかったと言われる。カズ君にそんな我慢を強いる関係を結ぶのは出来ず、咲子とカズ君は解散となり上手い落とし所をつけられる。この後のカズ君はレベルアップが著しく2人の最大の理解者に。最初の印象が最低だっただけに反動が大きすぎる。また父以外とも家族仲が改善されていき咲子の障害はなくなっていく。

しかし高橋が遠方で本当にやりたい仕事を見つけてからの展開はよく分からなかった。家族(仮)の解釈がフリーダムすぎるように感じるのは自分の価値観が追いついていないのか。2人を包む言葉が家族である必要はあったのかとも思う。2人が一緒に暮らすのは寂しいのは嫌だというのがあるはずで、もっと言うと老後の事とかあったのではないか?高橋はそろそろ意識する年齢だろう。それを離れても今では理解者もいるから大丈夫で済ませるのは大雑把に済ませられた思いがある。これが同性愛者の話なら『きのう何食べた?』や『彼女が好きなものは』みたいに踏み込まれてるので物足りない。それとカズ君の印象が大きすぎたのもあって、当事者よりも周囲の人間の理解に傾いたようにも感じる。尤もこの題材で連続ドラマを作られたのは恐らく初めてなので描けることにも限界があって、作られただけで意義は大きい。NHKはドラマはかなり頑張ってるよね。

高橋という役を演じる高橋一生にはどんな意味があったのか。この役には制作側か高橋側どちらなのかは知らないが深い思いがあるように感じられる。高橋一生は好きな俳優なので楽しい時間を過ごせた。岸井ゆきのと濱正悟は初めて知ったがこの2人も顔と名前をバッチリ覚えて今後の活躍に大期待。