真田ピロシキ

寄生獣 -ザ・グレイ-の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

寄生獣 -ザ・グレイ-(2022年製作のドラマ)
5.0
漫画映像化の意欲的な形を示してくれた。アニメで特に顕著だが最近の漫画映像化つまんないんだよ。原作を聖典化して少しのズレも許せないセコい映像になっちゃってよー完全にオタクサブカル嫌いになった私も漫画はそんな嫌ってないだけに、漫画を絵コンテ兼脚本くらいにしか考えていない映像化界隈には腹が立つ。

本作はNetflixによる韓国ドラマ。日本作品を韓国で映像化する時点で結構改変があるだろうと思っていたが、結構どころではなかった。主人公は男子高校生ではなくてアラサーの女性店員。そして何とミギーでない。顔の右側が変形する。完全寄生された連中のようにパカっと割れはしないが、それでも顔面が変形するのは異形感が強く、しかも若い女性で行う。小綺麗な映像の物語にはさせない。この主人公スインはかつて父の虐待を通報して逮捕させるも白い目で見られており、また寄生されるきっかけが如何にもな男性客に逆恨みで襲われてという韓国のミソジニーを告発する意図を感じる。映画やドラマ見てると韓国は進んだ国に感じるが実際は日本と変わらない点がかなりあり、フェミニズムへのバックラッシュも強い。その中で女性主人公にこのバックボーンを持たせたのは覚悟あってのことだろう。スインに寄生した生物はハイドをもじってハイジ。アルプスの少女の。これもエンパワーメント的な?

スイン/ハイジ以外も独自要素が強く、サブタイトルになっている寄生生物対策班グレイチームが最初から目立っている。しかも強くて寄生生物は実のところそこまで圧倒的ではない。原作の寄生生物は中盤くらいまで人間はほぼなす術もなかったと思う。だがこれも寄生獣の持ち味を損なってはいない。結局数で劣り繁殖もできない寄生生物は集団で効率的に対策取られると負けてしまう弱い存在。人間は強くて恐ろしい。だから人間に学んで組織化を試みる。人間が一番残忍な強さを見せるのが集団の目的のために少数を犠牲にして意思を統一する"合理的"思考でさらに頭はバンバンすげ替わる。今の世界を気持ちが悪いほど表現した敵のあり方。対するスイン/ハイジは共生するイレギュラーな変種で対立してた者とも場合によって組む個の集まり。全体主義vs個人主義。人間を描く上で良かったのはスインを手助けするヤクザ者のガンウを幼馴染の男が身を挺して助ける利他精神がある一方、警察の中に寄生生物を助ける者もいる良くも悪くも多様な個があって、全体主義との対比をより強められていた。これを6話で描き切ったのがすごい。と思ってたら最後にサプライズ。もう原作のテーマはやってない?何をやる親子か?完全オリジナルかもしれない。このドラマなら期待できそう。

アクションはショットガン無双が寄生生物のお株を奪うほどに目立っているが、寄生生物も空を飛んだり目を伸ばして索敵したり体と分離したり多彩で見飽きない。カメラワークも良い。役者も良くてフェミニズム側面があるのでメイン女性陣が特に光る。スインのチョン・ソニはキム・ダミと最近映画で共演してた人。今月見れそうなので楽しみが増えた。一番はグレイチームのチェ チーム長。最初は無惨に死ぬエキセントリックな人かと思ってたのに無茶苦茶強い。チームを率いて的確に指示を下し、自分も華麗にショットガンでズドンズドン。共闘を持ちかけられて聞く耳はあるが簡単に信じはしない用心深さがこの人の強さを表している。主人公サイドで多分一番強い。それで多分40歳くらい。仮に日本アニメで女性キャラをこのポジションに当てたとしてもこの年齢にはならず不自然に若くなったに違いない。この年代でこういう活躍をさせられる点でも実写化には大きな意味があった。演じていたのはイ・ジョンヒョンさん。マブリーゾンビのあまり面白くなかった続編に出てた人。あれでは特に思うところのない役だったが今回は素晴らしい。同じ監督でも随分違うものだ。