Blue

三体のBlueのレビュー・感想・評価

三体(2023年製作のドラマ)
4.0
このレビューは原作をこれからも読まない人、このドラマ以外三体に触れる事がない人は読まないで欲しいな、と思います。
知らない方が絶対にいいと思います。


三体は5冊とスピンオフの2冊あって、5冊の本編は3部構成になっています。シーズン1では第一部と最終章にあたる第三部が同時進行で進んでいるという展開をしています。

中国版の三体のドラマもあって30話で第一部を終えたのに対して、8話で第一部を終えてしまうそのデビットベネオフ、DBワイス、通称D.Dコンビの辣腕にはただただ驚くばかりです。
ただ正直Netflixのドラマ制作方針に従ってまとめた感じもあって、いわば受験が3日後に行われるから細かい所は捨ててポイントだけをしっかり押さえている感じもしました。
ちょっとスターウォーズのエピソード9 を思い出したというか、あまりに風呂敷を広げすぎたエピソード8をなんとかまとめるのに精一杯だったあの作品の影が少しだけチラつきましたね笑。

D.D.コンビはかつてゲームオブスローンズで重厚なヒューマンドラマの描いたように、この三体でもSFとしての面白さよりもヒューマンドラマに個人的には期待する部分が大きかったのですが、残念ながらヒューマンドラマとしては首をかしげるところがありました。
それはちょうどディズニープラスで配信されてる真田広之主演の将軍の影響もあります。
ここからはドラマだけを追いかける人ならば気分を害する事はになると思いますが、はっきり言ってジンチェン役がアジア系の人間でなくとも良いという点。
ジンは小説ではチェンシンという女性で間違いないのですが、チェンシンのイメージはそれこそ将軍のドラマに出てくる穂志もえか演じる藤という女性と重なります。
藤は侍/男性社会の翻弄されながら生きてる姫ですが、庭先にドカドカと入りこんだ侍を銃を片手に静かに一喝して侍達を追い払うシーンがあります。
ある意味で物のように扱われる女性と、虫ケラ程度に人間の事を思っていない三体星人と境遇が似ているし、それに静かに向き合うチェンシンの姿は藤と重なる部分がありました。
太極拳や剣術では強さを水に例える事があります。水の流れのようにしなやかである事、水をイメージして瞑想したり、そういう概念/思想が漫画をはじめ生活圏にまで影響を及ぼしています。

藤にもチェンシンにもそのしなやかさと水の一滴のような「純」さを感じさせる役ですが、Netflix版三体のジンチェンにははっきり言ってそのような印象は全く見受けられませんでした。言うならばハリウッド映画/ドラマによくある「戦う女性」になっていて、それは白人でも黒人でもできる事だし、中国人の書いた小説だからアジア系の人がキャストされただけでないかと思ってしまう。

ディズニープラスの将軍ではほぼ全編にわたって日本語で日本人以外は字幕で見る事になります。今までは全編字幕のドラマは海外ではヒットしないと言われていたけど、リアルな人間群像劇を描けば、ヒットはするという事を証明したと思います。
その事実を受けてドラマを見た後に三体を見てみると、VRの中国の歴史でも英語の会話だし、小説では日本人だったのに対してアメリカやヨーロッパの人が好みそうな顔立ちの女性で、ただでさえ後ろに刀を持っているのに違和感があるというのに、海外受けしそうなニンジャの衣装をイメージしたそのルックスに胡散臭さを感じてしまう。

アジアの文化を知ることよりも英語圏の人達にわかりやすいように書きかえている時点で、仮にこれがヨーロッパ、アメリカ人の書いた小説ならば、主役クラスにアジア人はキャストされていなかったと思います。

多様的である事はとても良い事だと思うけど西洋のフィルターを通して作られているし、真の意味での多様さというのにはまだまだ時間があるかかるのかもしれない、と痛切に感じたドラマ作品でした。
まぁこの三体は完全にHBO型のドラマだと思うし、D.Dコンビが悪いというよりNetflixのドラマ方針にこのドラマあってない気がしてならないのですが。

人間群像劇としてはその深みは半減してしまったけど、SFドラマとしてはやはり面白いので次のシーズンからは割り切って楽しみたいと思います。
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