Blue

三体のBlueのレビュー・感想・評価

三体(2023年製作のドラマ)
3.0
3回ほど読み返している大好きな小説三体のドラマ。
小説は5冊とスピンオフとして2冊出版されてます。今回のドラマは小説の一冊目の第一部を映像化した状態です。言うならば他の4冊の始まりの部分で、1番ストーリーとしてペースが遅い上に歴史的史実をベースにしてるので、1番重たいかも知れません。
小説では中国で起きた文化革命の歴史を一つの家族の崩壊と共にかなり凄まじく描きながら、絶望に暮れた1人の女性が何かを起こすストーリーで過去から現在までの話です。

第二部は黒暗森林で2冊分あり、現在から未来への話となっています。一冊目のある危機的状態からどう回避するのか、という事が主題になります。第一部、第二部と合わせて、もしも宇宙の他の星などに生命体がいたとしたらどうすべきか、コンタクトは取れるのか?という事をテーマに書かれてます。

第三部の死神永生/シシンエイセイは2冊分あり、本来は書かれる予定ではなかったのですが、かなりの人気作となっていたので作者のリュウジキンはそれなら思いっきりハードSF小説として読者を置いてけぼりにしてもいいから書きたい事を書こうと決めた作品です。
第二部までの黒暗森林だけでも壮大な宇宙観だったのに、それも序の口と言わんばかりにさらに飛躍していて、ラスト150ページは笑ってしまうくらい途方ない彼方まで世界観が拡がっていきます。
こちらも現在から未来へという内容です。この5冊通してずっと出て続ける人物は1人もいなくて、主人公も第一部、第二部黒暗森林、第三部死神永生ではそれぞれ主人公が違います。

この小説は大きく2つにしぼってポイントを説明するならば、一つ目は最低でも2000万人以上が虐殺されたといわれる文化革命によってシェイクスピアからアインシュタインまで西洋は毒だ、敵だとする事によって、映画や音楽文化にも侮蔑の目が向けられます。
日本でもSF好きと言えばひと昔前なら、嘲笑される事はあったけど中国に至ってはスターウォーズ自体が公開されたのが2000年以降でしたし、映画の中でもSFは嘲笑と侮蔑の対象だったのではないかと推察します。
その中国でSF作家としている事はどういう事か、と想像すると虫ケラのように邪険に扱われた事は何度もあるだろうし、中国国内だけでなく世界からも無視されてるというのが現状だったと思います。
そんな状況ながらも立ち止まる事なく、前へ前へ前へと前進し、たとえ文化革命で破滅的状況になって何もかも失ったという状態でも周りから虫ケラ扱いされ、世界から無視されても私達は決していなくならない、諦めなければ絶対に消える事はないのだ、という想いが最初から第三部の死神永生の最後の末尾までこめられている事が挙げられます。

もう一つは新たな時代をかなり意識した作品である事。2001年宇宙の旅という映画から映像文化、特にSF映像作品は大きく変化したと言えるけど、昨今ではアイザックアシモフのファウンデーションやDUNEなども映像化されています。
この小説三体では2001年宇宙の旅、インターステラーやジョディフォスター主演のコンタクト、スタートレックなどの映像作品やファウンデーション、田中芳樹の銀河英雄列伝の引用など、幅広いSF名作作品を網羅しつつも一つの時代、2001年宇宙の旅やファウンデーションの放ったビッグバンの空間から新たな時代、新たな空間を作り出そうと意識的に書かれてる事をとても実感しました。

個人的にもある意味で古典SF名作作品が映像化される事は、一つの時代の終わりとも感じています。その時にこの三体を読んだ時に、これは新たな地平に到達した物語だと感じたし、ゲームオブスローンズを手掛けたデビットベニオフ、D.Bワイスのコンビも同じ事を考えたのは間違いないと思います。
それも死神永生をドラマ化しなければ意味がないのだけど。問題はそこです。死神永生がドラマ化できるかどうか。

このコンビはスターウォーズシリーズの総指揮を手掛けるはずだったのですが、十中八九ビジネスのトラブルだろうけど、スターウォーズと三体を天秤にかけた時に、三体をとったとしても不思議はないし、彼らは三体を手がけるべきです。
ゲームオブスローンズ並みにえげつない所はえげつないので、彼らにピッタリですw。賛否両論を生むところも💥💥💥

とまぁ前置きが長くなりましたが、中国版ドラマ三体は、やはりというか文化革命の凄惨な部分は当局に配慮した、あるいは配慮させられたのだろうし、もう一つ幅広い世代に見てもらうためにわかりやすく説明的で、暴力シーンなどもかなりないので、原作の面白さとはちょっと比較にならないかな、というのが感想です。

しかしそれが1話目から原作にはかなわないというのがわかったので、軽く復習する感覚で楽しめました。ダーシーにはあんな優秀な部下もいないし新聞記者も小説には登場しないけど、まぁいいかと苛立つ事なく改変部分も見れました。

原作を読んだ事がない方はストーリーは面白いと思いつつちょっと一昔前のドラマを見てる気分になるかなと思いますが、原作ファンで自分のようなスタンスの人ならそれなりに楽しめる作品というか、なるほど中国版はこんな感じかと気楽に見れるんじゃないかな。とは言ってもラストはやっぱりブチ上がりました。

中国版も死神永生までぜひ映像化してほしいですね。日本人の刀を振るう女性は誰がやるのか今から楽しみです。
Blue

Blue