なっこ

ホテルデルーナのなっこのレビュー・感想・評価

ホテルデルーナ(2019年製作のドラマ)
3.1
この世とあの世の間にあり、彷徨える魂だけが留まれる場所、ホテルデルーナ。
ソウルの繁華街にあり、生きている人には見えない。お客様は幽霊だけ。

千年以上前からホテルの主を務めるのは、美しいが気難しい社長チャン・マンウォル。ある日マンウォルは、ホテルデルーナに迷い込んできた男を、息子を引き渡すことを条件に見逃してやる。
それから20年後、優秀な若きホテルマン、ク・チャンソンの元にデルーナから入社の知らせが。チャンソンこそが、昔助けた男の息子だった。

この世とあの世の間で、死んだ姿そのままでやってくるところは、「死役所」と一緒。でも、韓国と日本では文化的背景がやはり違うので、死神や麻姑神など変わった神様も登場してくる。三途の川もトンネルに車だし、まとめてバスに乗ってくこともある。その先は少しずつ今世の記憶が薄れていく橋を死者は歩いて渡って行かなきゃならない、その長さは49日。まぁ私のあの世へのイメージも落語を元にした絵本「じごくのそうべえ」とかだし、そう大きくは変わらないのかもしれない。

旅立つ前に立ち寄れる場所があるというのは、良い気がする。でも、それはあの世とこの世、どちらにとって都合が良いか、というと、やはり未練があるこちらの方の人間の考えが作り出したものなのかなと思う。恨みを晴らしたり、伝えられなかったことを伝えたり、やり残した作品を仕上げたり、確かに、そんなサービスをしてくれるホテルがあったなら最高だ。死んでみないとそんなホテルがあるのかどうかさえ分からないのも残念だが

マンウォルが月の宿に留まることになった理由は悲しい運命だけど、その積年の恨みをスッパリ消し去るほどのク・チャンソンの愛がなかなか説得力があって素敵だった。
貪欲で着飾ることが好きで食道楽で酒豪。そんな彼女に振り回される主人公が可愛い。見ててちょっと意地悪したくなるような可愛さ。最初は振り回されっぱなしだし、頼りないのにだんだん自分の弱さを盾に堂々と僕を守ってよ、とか言っちゃう感じがたまらない。総支配人として仕事も出来るし、一流ホテルマンとしての物腰も完璧。スーツがよく似合う。若くてセクシー。こんな部下がいたら仕事にならない、ずっと見つめてしまいそう…なんて思うのは私だけじゃないはず…そんな理想的な年下男子を見事に演じたヨ・ジング。素もあんな感じなんじゃないかなとか夢見ちゃうな。

ファンタジーな設定は、一緒に居られる限られた時間だとかが余命モノと同じで、死によって分かれなければならない運命がふたりの愛をよりいっそう濃密で切ないものにする。魂の行方が消滅か来世か選べる、というのもちょっと不思議な感覚。そういう現代を生きている人たちの死生観も垣間見えるのが面白い。トッケビの時もちょっと思ったけれど、神は市井の人々に色々細工をするけれど、人間の意志によって最終的な未来は決まる、というような運命論が働いているようにも見えた。感覚的にそれは分かる気がする。怨みを抱えたままでいるのに、子孫には平凡な生活を望むのもなんだか分かる。平々凡々な自分の生活も、そう願っていまがあるのもしれない。ドラマチックな人生も憧れるけれどドロドロしないで平穏無事でいられるのも幸せなのかもしれないと。

個人的には麻姑神の考えをどう捉えてよいか分からない場面もあって、道教に神さまがいるなんてことも知らなかったので、東アジア圏の神さまや神話や昔話なんかも知りたくなった。ラストは個人的には納得出来る、美しい終わり方だったと思う。そして、強く自分の足で選んだ道を歩くヒロイン像はとても好きでした。
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