なっこ

今ここにある危機とぼくの好感度についてのなっこのネタバレレビュー・内容・結末

3.3

このレビューはネタバレを含みます

「必ずや名を正さんか」 孔子(論語)
問題には正しい名前を付けなければ、それを解決することは出来ない、そう総長は話してくれた。主人公が聴かせた録音にあったみのりの言葉がそう気付かせてくれたという。

誰もが“好感度”で武装して“ほんとうのこと”を言わない。“ほんとう”をぶつけられる勇気がない訳じゃない、それが腐り切っている現実だと知りながら、世渡りのために忖度すること=好感度で自分の身を守ることを知らず知らずのうちに身に付けてしまっているのだ。私たちはきっと彼のことを笑えない。どこの業界でもそこそこの暗黙のルールがあり、それをきちんと守っていなければ排除され生き残ることなど出来ないからだ。
それでも今いる場所が腐っているなら、クソみたいな世の中だとわかっているなら、正しい言葉で声をあげなければ、変えていくことは出来ない。

このドラマが伝えたかったのは、正しく言葉を伝えることの大切さだと感じた。人の心を動かす言葉、真実の言葉、誰かを思いやる言葉、それを発する人間の存在によってはじめて、人は変わることが出来る。主人公が少しずつ成長したのも、総長が変化していったのも、言葉としてちゃんと意味も温度もあるその人の“言葉”に後押しされていたように思うから。
須田理事を悪役にしなかったのも、総長の言葉をきちんと受け取って反撃を諦め欠席を選び取った彼を評価したからだと思う。総長の言葉は確かに彼に響いていたように見えた。

記者会見のシーンではキング牧師の言葉が引用されていたけれど、私はこのドラマを見ながら、長田弘氏の詩にいせひでこさんが絵を描いた絵本『最初の質問』と
“私は声をあげなかった”とリフレインする詩を思い出した。

“目覚め”るにはまず聴く“耳”が必要だ。真実を聞き分けられる“耳”が。今そこにある危機に対して誰がどんな言葉を発しているのか、私も耳をすましていたい。そして確かな目で未来を選び取りたい。
ちゃんと人の心に届く意味のある言葉でこの世界が満たされるように。

※以下各話感想
#最終話
必要なのは、好感度でも正義感でも度胸でも勇気でもなく、“愛”だという結末は美しい着地。
主人公の成長譚でもあるけれど、あえて大立ち回りを演じないヒロインとして描いたみのりちゃんの存在感が素敵過ぎる。みのりサイドで描いてしまったら単純で分かりやすいけれど面白くはなかったはず。ままならない現実を器用そうに見えて全然不器用でスマートに通り抜けられない主人公だからこそコミカルで味のあるドラマに仕上がったのだと思う。
それにしても“みのり”呼ばわりしている澤田教授がちょっと可愛くて、出演者全てのキャラクター設定には愛情を感じる、悪い奴らはいっぱいいたように見えたけど、誰かを叩いて悪者にして排除しようとはしていない。誰かの不幸の上に打ち立てる正義は私も何か違う気がする。

#4
一週飛ばしたことでなんだか主人公が成長してる気がした…みのりちゃんからの着信に私も嬉しくなった、最終回に出てくれるのかな。

#3
人間万事塞翁が馬。良い方向に動いたと思ったことが未来に最悪の事態を引き起こすかもしれない因となろうとは。
会見の打ち合わせの時になんで英語で会見しないの?と学生が聞いた頃からきっと総長が英語で何か言うのだろうとは思っていたけれどその内容がとても良い。ゆっくり日本語で質問をしてきた外国人記者の質問にきっちり英語でその引用も踏まえて返す。ただ英語が喋れるとかじゃなくて踏まえるべき教養をちゃんと共有していることがこの応答の良いところだと思う。それは相手の状況を真に思いやってぶつけた良い質問であり、それに対して真心とユーモアで答えた総長が粋に感じた。
主人公が地味に成長していく過程で周りを巻き込んでいくところがすごい。なぜか彼の味方をしたくなる不思議な魅力が彼にはある。

#2
長距離バスに乗る前のみのりちゃんがとても綺麗で美しいシーンだった。
こういうことってよくある気がする。彼女の賢さと彼のテキトーさは永遠に平行線で分かり合えない、それなのに出逢わせる、そういう巡り合わせがあるのが人生だと言われた気がする。
貴女を通り過ぎていったあの男のことなんてさっさと忘れちまいな、きっぱりとしたあの一言が貴女の生き方の美しさ。私もその一瞬を忘れないから。

#1
私も、そうなのかもしれない。世界は単純であって欲しい、ドラマは分かりやすくあって欲しい。
でも、ほんとうの世界は複雑で理解し難い。確かに、本来なら主役級の元カノの方を物語の本流に据えるべきところだろう。ところが長いものに巻かれる日和見主義の彼を、視点的人物に置くことで何が起こっているのか薄い幕を隔てて見ているような感覚になって面白いのかもしれない。何よりこのイケメンは元カノとの顛末を一切覚えていないし語り手として全く信用ならないのに主役であるが故に信頼するしか道はない。でも彼の単純さが大学内の問題点をよく知らない見る側に近くて、この問題を掘り下げていく視点としては優秀なのかもしれない。
“正義”に気を付けろなんてセリフは感慨深い。正義や正論ってぶつけるのは簡単だけど、問題解決には役立たないのだろうか。結局総長の心を動かしたのは何だったのか、それを彼が分かる日はくるのだろうか。
なっこ

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