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グレイマンのAnima48のレビュー・感想・評価

グレイマン(2022年製作の映画)
3.9
寝惚けてタンスの角に小指の先をぶつけたりする、そうすると先刻までの夢心地はどっかに飛んで目から涙が出て今自分が世界で最高に不幸な人間だって思ったりもする。アクション映画のヒーローになんて絶対なれない。

アクション映画等で主人公にはめったにナイフは刺さらないし弾も当たらない。でもライアン=シェラ•シックスには割と当たる。でそれを克服する手段が自己暗示・意思の強さ、言い換えれば我慢とかテクニカルな“痛いの痛いの飛んでけ!”だったとは驚いた。

ライアン・ゴズリングが傷ついた過去を持った組織の暗殺者というある種類型的な役を演じている。そんなに感情の起伏を出さない彼の演技が面白い、かなり強度の危機でもつらい顔をせずにやるべきことをやる。ボーンシリーズもそうだったけれど、でも今回の主人公はどこか慣れきっていて醒めた顔で言い方をかえれば“ちょっと飽きてきたんだよね・・”みたいな表情。で、ちょっと優男のライアン、目つきがゴールデンレトリバーの子犬見たいなところもあってかなりのピンチもあまりストレスを受けていない感じが却って得体の知れなさを感じる。それが感情を見せてくれる場面でクレアに向ける笑顔•優しさを印象付けさせる。そして穴からの脱出は高い知性をこちらに印象付けていた。

クリスエバンズは、本当にあなたキャプテンアメリカだったの?っていうくらい真逆な悪漢を演じていて、拷問好きで自己顕示欲が強くて、善悪とか考えない調子のよい破綻者を演じてる。得意不得意がはっきりしているタイプで、ライアンに格闘で押されていてもナイフ握った途端にもうギアを上げていた、何だろう、“料理作るのは苦手でも食べるのは得意なんすよ、俺。”みたいな。格闘途中の右手から左手にナイフを移す辺りがびっくりさせる。振り返ると今作のアクションの過激さがエスカレートする感じは彼の用兵やら性格やらに起因するので、喪うのは惜しい気がする。アナ・デ・アルマスのアクションがタフだった。女性だから男性だからという視点を越えて素晴らしいと思う。シックスのピンチを何度も救ってジョークのネタになるくらいの強さに本当に説得力があった。彼女の活躍だけでもこの映画は見る価値はあると思う。

出てくる格闘が普通の格闘技とは違って、武器を持っていることが前提の格闘技のように見えた、本当に相手を壊しちゃうための攻撃のような。そういったあたりの怖さをすごく感じる。ボーンシリーズ以降こういった格闘はよく見るけれどその動きをライアン、クリス、アナ、ダヌシュがしっかりしていて日常生活とは異質な物を見ている実感がわく。

パーティー会場で喧噪に紛れて暗殺、飛行機を墜落させながらの脱出、地元警察を巻き込みながらの銃撃戦、古城への攻略。並みのアクション映画なら、クライマックスに持ってくるようなアクションシーンが続く。特に市街戦と古城攻略戦はどこかで見慣れたシーンの様に見えて、初めて見るような工夫が凝らされていた。劇場公開用ではない映画はどんな時でも視聴者を飽きさせないようにしないと行けないので大変、こういった作品てある種のスタンダードになりつつあるのかな?

市街戦は上司のアジトから脱出⇒車で移動⇒手錠で拘束⇒傭兵と地元警察の闘い⇒拘束解除⇒路面電車による逃走と傭兵の撃退という一連の流れからできていて、アクションシーンが長いけれどステージがどんどん移り変わるので飽きないで進む。そして手錠で拘束されている間は、ライアンが動かずに一旦焦点が警察と傭兵との闘いに移る、それが急速にエスカレートしていく様がコメディーの様だった。警察はパトロール中の警官の応射からSWATの投入まで進み、装備も拳銃とパトカーから装甲車と重火器の組み合わせに及ぶ。傭兵はだんだんAチームからDチームまで増えてくる。・・最初から一度に出したら?と思ったけど、一応は隠密作戦だったからそれは難しかったのかもしれない。そしてその間ライアンはベンチに固定され動けず、まるで事件に巻き込まれたようだった。・・実際は彼が引き起こした騒ぎだけれど。路面電車でのシーンは少し“スピード”を思い出させる。(あの映画は集団での銃撃戦はなかったのになぜだろう)。街中を移動するバスのような大型の車体と車両と車両との移動という列車の両方を兼ね備えた路面電車の特徴をうまく組み合わせていて新鮮だった。もっと欲を出せば列車にある終着点が絡んでればなって思ったけれど。そして救援に入るアナの運転ぶりがタフでハードで、新しいアクションスター誕生も思わせた。

古城のアジトの潜入攻略ではまずアナが大きな武器は私が貰うわと宣言するところから始まる。ここは作品の大きな要素だと思う、そこから大活躍。彼女はヘリを打ち落として、コントロール室も吹き飛ばして、傭兵も吹き飛ばす。・・要はすべてをなぎ倒していて、コマンドーを思い出した。暗闇で火柱自体や映し出される城壁が印象的、あの古城はあんな撮影をして大丈夫だったんだろうか?もし傷んでたらちょっと心が痛む。そこからの格闘もテーブル越しのワイヤーを使った動きは新鮮だった。その間主人公が救出&逃避行を行う。このアナが陽動と拘束、破壊をして、ライアンが潜入救出をするっていう2面作戦がしっかり誰が何をやっているかがよくわかる。そして台詞で作戦の概要を説明せずに理解させるのは監督の手腕何だろうか?そして宿敵との格闘とある種あっけない幕切れも楽しい。

スーパーヒーローやシリーズ物以外のアクション映画って久しぶりに見たような気がする。なので、単純に純粋に楽しめた。

・・眠ったままの巨悪は何処に?
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