むぅ

ハケンアニメ!のむぅのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
3.9
なんのこれしき。

人造人間を腎臓人間だと思ったまま長年生きてきた過去があるので、『ハケンアニメ!』のハケンが派遣じゃなく覇権だったくらい何て事はない。
ニコラス刑事も、Hello注意報も、桜田ファミリアだって通って生きてきた。


そのクール、どのアニメが最も成功した称号 ハケンアニメを勝ち取るか?!
有力候補は土曜夕方17時の枠で放送が決定した2作品。
一方は注目の新人監督、一方はメガヒットを生み出してから8年ぶりの監督の復帰作、覇権は一体どちらの手に...?!


この感覚をどう例えたらいいのだろう。いや、面白かった!好き。
ただ、ちょっとだけ何かが残る。
飲みすぎた翌日の二日酔いのようなダメージは全くない。
けれども、よし!洗い物終了!と思った時に見つけた炊飯器のお釜や、欲しいものがあったから入った100均で買い物を楽しんで目的のものを買い忘れた事に気付いた時の感覚にちょっと近い。
"忘れてはいけない存在"ってある。

この仕事が大好き!と思える職につけている。だからこそ、多少理不尽に感じる事があっても何のその!と乗り越えられた事は多い。
そしてその経験は自分の宝になっているとも思う。
でもきっと、私のヤル気の炎で火傷した人はいたはず。
私と同じモチベーションに合わせてと圧をかけたことがあったはず。そんな苦い経験がちょっと頭をよぎる。
それはきっと今作の覇権争いに疲れ果てた人もいると思うのに、そこは描かれていなかったから。

その"忘れてはいけない存在"が心に残ってしまったのは、作品のせいではなく、私のせい。
そして洗い残しや買い忘れ程度の感覚で済んだのは、やっぱり今作が面白かったおかげでもある。

「時々レビューでボヤいてるね」
友人が言うので笑ってしまった。そう、ここまでは私のボヤきだ。


ワクワクしながら観た。

ずっと演劇部だった事や、仕事もチームワークが要な職種なので、今作で描かれる達成感や充実感がどれほど素晴らしいものかよく分かるつもり。

何かを生み出したり創り上げる才能って本当に素晴らしくて魅力的で、そして孤独だなと思う。

「1を2にしたり100に出来る事はあっても、0から1を生み出す事は出来ない」
こう言ったオードリーの春日に、
「監督やってみたいけど、どうしても伝えたいメッセージなんて俺は持ってないからオリジナル作品は無理だと思ってる」
こう言った村上淳に、
"全私が共感しました大賞"を差し上げたいと願ってやまない。
でもそんな私でも、チームの一員として得た感動体験をありありと思い出すし、またそれを得るために頑張ろうと思える"お仕事ムービー"。

「好きをつらぬけ」
理想と現実、表と裏、割り切れないものの中でそれぞれが貫くものを、これ作品化して欲しいなと思わせる2作のアニメーションと共に描く。貫いた先に「刺され」と願いながら。

ここまでダラダラと書いて、"刺さる"って凄いと改めて思う。
私には今作の柄本佑が"刺さった"。
「柄本佑演じる行城みたいになぁれ♡」
と上司の顔を見ながら心の中で魔法のステッキを振ってみた。もちろんアニメーションのように変身はしてくれない。
現実は厳しいとボールペンを回していると劇中のアニメの台詞が蘇った。

「お前を絶望させられるのはお前だけ」

つまり。
私が私に魔法をかけて、私が行城になればいいだけのこと。
自分から歩み寄ることの大切さを再認識させてくれる作品でもあった。

「行城は私がなるから、柄本佑になぁれ♡」
ともう一度、今度は上司の背中を見ながら唱える。
魔法は届かなかったが、怨念が届いたのか、そのタイミングで肘を掻いていた。
魔法は使えない。
だからこそ、魔法にかけられたような体験をさせてくれる"刺さった"映画たちをお守りに頑張るしかないのだ。

そしてあちらも
「吉岡里帆になぁれ♡」
と思っている可能性について。
むぅ

むぅ