むぅ

原爆の子のむぅのレビュー・感想・評価

原爆の子(1952年製作の映画)
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「むぅさんてすごいですね」

この場合の"すごい"は"マメ"という意味だろう。一緒に働いていたのはもう何年も前の事。誕生日を聞いたら「長崎の原爆の日です、だから誕生日の朝のテレビっていつも原爆のニュースなんですよね」と返ってきた。
本人は何気なく言ったその言葉だが、私には何故かとても心に残った。
以来、8月9日には必ず「お誕生日おめでとう」とLINEをする事にしている、出来れば日が暮れないうちに。
近況報告と共に今年はそんな返信をもらった。


広島の幼稚園で働いていて被爆した主人公は、瀬戸内海の小さな島で教員をしていた。原爆投下から7年後の夏、広島を訪ね、かつての友人や教え子と再会する。
彼らの日常生活は今...。


長田新により編まれた作文集『原爆の子―広島の少年少女のうったえ』を元に、新藤兼人が脚本・監督を担当した作品。被爆から7年後に製作された本作は、原爆を取り上げた最初の日本映画と言われる。
一時は日教組との共同制作の話もあったが、新藤兼人脚本に「原爆の真実の姿が知らされない」と難色を示し、両者は決裂。日教組は『ひろしま』を制作している。

原爆投下時の様子という点では『ひろしま』の方が直接的であったり、強いメッセージが台詞としてあったと思う。
ただ、自身も被爆の経験を持ち、決してそれを忘れてはいないのに、きっと自分を守るために"その事"から距離を置いて過ごそうとしてきた主人公の様子を描く今作もまたリアルだったと思う。
嫌な事、考えたくない事から、意図的に目を逸らすことのある私としては、主人公の気持ちがわかる。そしてそれが痛かった。

初めて観る新藤兼人監督作品。
新人映画監督に贈られる新藤兼人賞の存在を知ったのは『佐々木、イン、マイマイン』を観た時。調べてみたら『37セカンズ』のHIKARI、『かもめ食堂』の荻上直子、『ハッシュ!』の橋口亮輔、『メランコリック』の田中征爾などが受賞していて、個人的に新藤兼人賞は信頼出来る!となった。
そのくせに一作も新藤兼人作品を観た事がなかった。

『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーン演じるホリーが「気持ちが赤く沈む」と言っていた。その時、私は"赤"かぁ、私も気持ちが沈む事はあるけれど"赤"ではないかもしれないと思った。
でも今作と原作が同じである『ひろしま』、そして今作を観た後の気持ちは"赤"、と言うよりは"緋色"に近いかもしれない。

「安らかに眠って下さい。
過ちは繰り返しませぬから」
核の影が強まっている今、広島の記念碑に刻まれた、この言葉の主語を"私"として、忘れずにいる事、考え続けていく事、微々たるものでも出来る何かをする事、をしなくてはと思う。


明日は終戦記念日。
あの頃一緒に働いていたメンバーや、そこに来てくれていたお客様たち、皆それぞれに別の場所で過ごしている。全国・海外に散らばったけれど年に数回のLINEで元気だという事を知るたびホッとする。
なかなか会えないけれど「何年後になっても、いつか会おうね」、そんな約束が出来なくなる戦争。
住む場所が変わるという大きな変化があったからだろうか。
この夏は特に"戦争"について考えた。
むぅ

むぅ