むぅ

ソウルフル・ワールドのむぅのレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
4.0
外に出たらちょうど雨が止んだ。
お会計と財布の小銭がぴったりだった。
立ち止まらずに信号が青になった。
歩いていたら金木犀の香りがした。
店員さんがほどよく感じが良かった。
目覚ましが鳴るちょっと前に目が覚めた。
そんな気持ちになってもらえたら嬉しいです。

大学時代、演劇部の公演のパンフレットに作・演出の先輩が挨拶にこんな文章を書いていた。何て素敵なんだろう、と思った。
その時、大学3年。数々の挨拶文を読んできた中でこれが1番好きだった。
それを思い出した今作。


ジャズ・ミュージシャンを夢見る主人公は、夢が叶う直前にマンホールに落ちてしまう。
彼が迷い込んだ世界は、ソウル〈魂〉が地上に生まれる前に「どんな自分になるか」を決める世界だった。


『インサイド・ヘッド』を観た際、キャラクターになった"感情"たちを見守りながら、私の"感情"たちはすぐさま酒盛りを始めるに違いない、いや今現在も脳内で酒盛りをしているのではと思った。
今作でもソウルたちが地上に行くための最後の切符、「どんな自分になるか」のための"きらめき"を探すシーンで、わわわわ私のソウルはおおおおお酒にきらめいたに違いないと確信してしまった。
はたから見たら、しょーもない"きらめき"でも私にとっては極上の"きらめき"。
この"きらめき"にケチをつけられるのは、私の肝臓くんだけだが、どうやら彼は相当無口らしいので、労わり、思いやりを持って共に人生を歩んでいくのだと鑑賞しながら思った。ピクサーからすると「そういう事が言いたいんじゃねぇ」と言われそうだが、そう思ったのだから仕方がない。

疲れている時、ちょっと気持ちがよどんでいる時、誰かの"きらめき"が眩しすぎて怯んでしまう事は誰しもがあること。
それでも"きらめき"は伝染する事だってある。その人が内側から放つ"きらめき"は素敵。そして、木洩れ日、せせらぎ、朧月夜、飛行機雲、炊き立てのご飯の香り、雨上がりの虹、道端に咲いた花、そんな"きらめき"は深呼吸で身体の中にきっと取り込める。
そんな事を感じた。


大学3年の冬、最高の挨拶文を書いた先輩が作った芝居は最高につまらなかった。
あの時、私は感性が似ていても表現方法が違う事はあるのだと学んだ。
全く関係のないところで誰かや何かを"下げる"発言は、自分の"きらめき"をくすませてしまうもの。気をつけなくては。
これに関してはつまらなかった事含め私の中に大切な"きらめき"として残っているからいいか、と缶ビールをプシュっとした。
むぅ

むぅ