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RRRのymdのレビュー・感想・評価

RRR(2022年製作の映画)
3.5
昨年最も映画業界を賑わせた話題作をようやく鑑賞。
異例のロングランヒットで1年以上経った今でも劇場公開されている事実に驚くが、それだけ多くの人の心を掴むは魅力がある作品なのだろう。
ぼくはタイミングが合わずに動画配信サービスでの鑑賞となったが、その選択は間違いだったと映画冒頭すぐに気づくことになった。

これは完全に劇場体験型のエンターテインメントだった。
自宅の貧弱なモニターとスピーカーではその魅力を充分に理解することは難しくなる厄介な映画だ。

なのでぼくにとってはこの映画で巻き起こる熱狂の波についていけず、この評価になってしまった。

ボリウッドフィルムの王道を行く闇鍋映画であるが、本作の足腰はダイナミックで超現実的なアクションシーンにある。
3時間近くという圧巻の長尺の中にこれでもかと多彩なアクションをぶち込んでいるのだけど、とにかく突飛でオリジナリティを突き詰めた演出の連続で興奮を超えて胸焼けしてくるのである。

そのうえで、お茶の間を沸かせたダンスシーン、主人公2人のブロマンス、インド史実をある程度参照したらしい舞台装置とその背景に横たわる社会問題への言及など、インド映画らしくあらゆる素材をシュリンクすることなく、むしろ誇大的に膨張させることで画面に圧倒的なエネルギーを放出させている。

一つのコンセプトだけで一本の映画を作ることが容易なほどの情報量を有しているが、それをあえて一つの映画作品に押し込んでしまうその熱量の高さこそがボリウッド映画の醍醐味だと思うけれど、今作は特にその特徴が強調されているように感じる。

そんなエンタメ映画の見本市のような作品なのであるが、やはり今作の肝はアクションシーンで、そのアイデアに富んだ狂気じみた演出の数々は近年のハリウッド映画を軽く凌駕し、他の追随を許さない領域に到達している。冒頭の大群の中を孤軍奮闘する一連のシーン展開は特に素晴らしく、最初からクライマックスなのかと錯覚するほどのダイナミックな演出に身震いしてしまった。

ただ、アクションやミュージカルシーンに対する気合の入り方に対して、プロットの火力が不足していたように思えてしまう。
主人公それぞれが抱く信念の対立と邂逅をテーマにした話運びは非常にシンプルだし明快なのは良いけれど、この長尺を推進させるにはもう少し工夫が欲しくなってしまった。

あと、インド映画に詳しくないのでこれがスタンダードなのかもしれないけれど、あまりに主人公2人のブロマンス的な関係性だけに焦点を絞りすぎているからか、周囲の登場人物たちの輪郭が不明瞭なのも気になってしまう。

特に重要なはずの女性2人の掘り下げが圧倒的に足りていないのでストーリー全体の説得力にまで影響力を及ぼしてしまっているように感じてしまったのも残念だ。

たぶん映画館という環境であればそういう細かいところを気にする暇もなく全身でエンターテイメントに没入することができていたのだろうけれど、家でリラックスしながら観てしまったことで余計な感想が生まれてしまったのだと思う。

もうひとつ、散々絶賛の評判を見聞きしたこのタイミングでの鑑賞というのも期待値が上がり過ぎて正常な判断の妨げになってしまったのもあるかもしれない。
去年の公開全盛期の「なにがなんだか分からんが凄い」という空気感の中で観ていたら、きっと感想は違っていたはずだ。

とはいえ近年の娯楽映画より社会派映画の方が持て囃される傾向の中で、ここまでエンタメに振り切った作品が評価されることは痛快の一言に尽きる。

『バーフバリ』でも世界を熱狂させたS・S・ラージャマウリの次の一手に期待したいし、次こそは映画館で体感したいものだ。
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