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キル・ボクスンのymdのレビュー・感想・評価

キル・ボクスン(2023年製作の映画)
3.8
韓国映画からまた新たな傑作アクションが誕生した。
87eleven以降のアクション映画の流行を抜かりなく取り込みながら、韓国映画らしい苛烈さも損なうことなく展開する見応えのある作品に仕上がっている。Netflix配給映画はピンキリだけど、これは大当たりだ。

趣向やテーマこそ違えど、さながら“韓国版アトミック・ブロンド”とも形容したくなるような、女性によるスタイリッシュアクションの傑作だと思う。

シングルマザー×殺し屋稼業というユニークではありながら特別斬新というわけでもない設定なのだけど、暗殺業が資本主義の中でビジネスとして成立している社会で自らが会社の駒として消費されているジレンマと、多感期に悩む娘とのディスコミュニケーションを並列で描くことで、キル・ボクスン(チョン・ドヨン)の内的葛藤が丁寧に描かれているので突飛な建て付けなのに破綻を感じさせないのが見事である。

登場人物は多いが複雑なプロットになっておらず、とても明快なストーリーになっている。
あえて主要人物だけにピントを絞っているのだろうがその狙いは正しくて、あくまでキル・ボクスンその人を中心にしたミニマルな視点に徹することで物語の没入感を高めるのとに成功していると感じる。

肝心のアクションも凝ったアイデアが満載で観ていて飽きないし、変に誤魔化したり濁すことなくしっかりと見せ切ることでカタルシスが生まれている。特に中盤の飲食店で起こる死闘の演出はカメラワーク含めて非常に秀逸で思わずすぐにそのシーンだけ見直してしまった。

映画全体のムードはドライなんだけど、情愛(家族愛や微かな異性愛)を描く際にはウェットな質感が出るのは韓国(というかアジア圏)映画のクセが出ていてそれは少し勿体なかった。湿っぽいシークエンスが出るたびに推進力が減衰してしまっていてやや間延びした印象を受けてしまったのも事実。

単なるアクションではなくドラマ性を担保したかった意図はテーマの性質上よく分かるけど、紋切り型の感は演出ではなくその先の独自性を期待してしまったのは欲張りか。

とはいえこのクオリティのものをサブスクリプションで気軽に観れること自体驚異的だし、願わくば続編を熱望する。とても痛快で面白い映画でした。
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