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M3GAN/ミーガンのymdのレビュー・感想・評価

M3GAN/ミーガン(2023年製作の映画)
3.7
ホラー映画の皮を被ったスラッシャーコメディ。
ブラムハウス製作なのでジャンル映画ならではの雰囲気は醸成されているけれど、怖さよりも可笑しさが勝る堂々たるコメディ作品であり、そして意外にも本格的な社会派映画になっていることに驚いた。

ストーリーそれ自体は既視感たっぷりで目新しさは皆無。というか2019年版『チャイルド・プレイ』とほとんどプロットは同じなのだけれど、本作が秀でているのはなんと言ってもミーガンというキャラクターの造形美に尽きる。

とにかくミーガン自体の存在感の説得力を高めることに注力した脚本と、現代的なAIテクノロジーに密接にリンクした作り込まれた描写も相まって、ただのSFだと吐き捨てることができないようなリアリティを獲得しているのが素晴らしい。

幼くして孤児となったケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)とミーガンの歪ながらも強固な関係性はさながらリアルな世界におけるスマートフォン(タブレット端末)に依存した現代人そのものであり、本作はミーガンというメタファーを通して行き過ぎたテクノロジー社会へ警鐘を鳴らしているように感じてしまうのは考え過ぎではないだろう。

主人公ジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は本人が望まない形で母親の立場を突然引き受けることになる。
母親という責務をテクノロジーに移管させてある種の現実逃避を試みるのだが、その風景も昨今の性急な教育のAI化に対する揶揄に受け取れる。

今作が巧みなのは、そうした一方間違えると危うくなる状況を単なるフィクションとして描写するだけでなく、人間本来が持つ(べき)対人的なコミュニーションの尊さ・不可欠性にまで言及していることにある。

あくまで技術は人の営みを補完するものに過ぎず、コミュニティを形作るのは世界がどんなに変わっても血が通った対話であり、交流に他ならない。

ジェマとケイディの不器用で不完全な関係性が徐々に熱を帯びて本当の親子へと変容していくその過程の見せ方には感動すら覚えてしまった。

こんなハイプな娯楽映画にムキになってしまうのは馬鹿馬鹿しいと自分でも思うけれど、今作は実は非常に示唆に富んだ本格的な社会派映画だと感じずにはいられない。

ヴィジュアルの奇抜さを追い求めるが故にところどころプロットが蔑ろになっているのが残念なのでこの評価だけど、期待していたよりもずっと見応えのある骨太な作品だと思います。
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