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スカーフェイスのymdのレビュー・感想・評価

スカーフェイス(1983年製作の映画)
4.5
ギャング映画の金字塔にして今なお世界中のポップカルチャーに多大な影響を与えるカルト名作。

ブライアン・デ・パルマは本作の後に『アンタッチャブル』や『カリートの道』などのギャング映画の傑作を次々と生み出しているけれど、本作の圧倒的なエネルギーはずば抜けている。

アル・パチーノ演じるトニー・モンタナという男の栄枯盛衰を描いたこの映画は、ログライン自体は非常にシンプルで目を見張る展開はないものの、アル・パチーノの殺気立った絶縁とデ・パルマの洒脱でクールな演出、そしてオリバー・ストーンの世界をシニカルに見つめるようなツボを押さえた脚本美によって綿密に作り上げられた素晴らしい傑作だ。

名匠ジョルジオ・モルダーが紡ぐ劇伴もまた素晴らしい。
非常に独特な風合いのエレクトロサウンドが、このような(ある意味で)古典的でノンフィクショナルな作風に対しての鮮烈なアプローチは未だセンセーショナルである。

トニー・モンタナの苛烈な生涯を丁寧に描いた本作はギャング映画である以前に極めて優れたヒューマンドラマだ。

トニーという男はカリスマ的な存在感を放つ一方で、己の粗野な猥雑性も常に振りまき続けている。
その不格好さ、卑しさこそが彼の何よりの魅力であり、そんなアンビバレントな繊細な人間性を見事に演じ切ることができるのは当時のアル・パチーノをおいて他にいないのである。

失うもの・恐れるものが何も無い狂犬が栄光を手にしたことで、一転して全てを手放すまいとして周りを拒絶し、恐怖を紛らわすためにドラッグに溺れていく様はあまりにも物哀しくも刹那的な美しさを湛えている。

己の力のみで底辺から文字通り這い上がっていく彼の生き様は、そしてTHE WORLD IS YOURSというフレーズは世界中のマイノリティたちを(特にヒップホップの文脈においては絶大な影響を与えている)魅了し続ける。

最高にパンクでヒップホップなカルトムービーだ。
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