ymd

ヘルドッグスのymdのレビュー・感想・評価

ヘルドッグス(2022年製作の映画)
3.5
原田眞人監督と岡田准一という『燃えよ剣』の2人が再びタッグを組んだ本作は現代的なヤクザ映画となっており、コンゲーム的な色合いの強いバイオレンスアクションムービーである。

最近は立て続けにヤクザモノの傑作が生まれており、本作もそういった時代のムードに後押しされている節があるが、『虎狼の血』とか『ヤクザと家族』などに比べるとかなり活劇色が濃く、良くも悪くもマンガ的な演出や展開でリアリティラインが低い作風になっているのが特徴的である。

岡田准一と坂口健太郎というクリーンなイメージを持つ花形役者を据えているにも関わらず想像以上に本格的なバイオレンス描写に挑む姿勢は素晴らしく、退廃的でダークな雰囲気も含めて明らかに韓国ノワールへの接近を試みた映画なのだろうが、それはある程度の成果を収めていると思う。

岡田准一はさすがの存在感を放っており、アイドルとしてのポジショニングを完全に超越している。演技の振れ幅が広いタイプの役者ではないが、作品選びから作中での立ち振る舞いに至るまで、セルフプロデュースの上手さは圧倒的である。

坂口健太郎も清廉なルックスの中に潜む異常性を見事に顕在化させており、自身にこびりついたパブリックイメージを逆手に取った新境地を開いている。
はんにゃ金田という意外性のある起用も含めて原田眞人のキャスティングの妙が光っている。

ただし、役者の安定感のある演技は見事である一方で、脚本の重厚度が追いついておらず全体的にやや軽薄な印象が付き纏っているのが残念であった。

シーン一つ一つは決して悪くはないのだけれど、本筋が終始予定調和的に進んでいくために潜入捜査モノでは絶対重要視すべき緊迫感が希薄なのだ。

なによりも期待ハズレというか肩透かしだったのが、潜入捜査モノなのに「バレるかバレないか」という最もシンプルでいて面白いサスペンスシークエンスをほとんど描いていないこと。
本作の重心はそこにはないと言われればそれまでだが、それならそれでプロット変えてビジランテモノとしてのストーリーで一貫させるとかやりようはあったんじゃないかと思ってしまう。
大々的にアンダーカバーを題材に謳っている以上、『インファナル・アフェア』(『ディパーテッド』でもいい)みたいなストーリーを期待してしまうわけで、出てきたのがジョン・ウィックだったらやっぱりちょっとがっかりするというか。

アッと思わせる転調もあるにはあるがそれらも火力不足な印象が拭えない。舞台装置は充分整っているのだから、予測不能な凶暴性のあるサスペンス要素をもっと発露させてほしかった。

シネコン系の邦画においてはかなり気合いの入った作品なので勿体ないと思ってしまう部分が目立ってしまったが、十分楽しめる良作でした。
ymd

ymd