シマすけ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのシマすけのレビュー・感想・評価

4.1
【混沌から見つけ出したもの】


スイス・アーミー・マンと雰囲気が似ていると思ったら同じ監督の作品だったんですね。


マルチバースという概念については、スパイダー・バースでなんとなく分かったような分からないような、そんな程度でした。しかしそんなことを気にする暇もなく段々とカオスでパニックな展開に突入し、にも関わらずなぜか最後は感動が深く心に染み渡る不思議な映画でした。

まず普通のおばちゃんが並行世界の自分達の能力を借りて無双するだけでも楽しいのに、その力を借りるためのスイッチが「馬鹿なことをやれ」なのが最高に馬鹿。
劇中アホなスイッチが色々出てくるのですが、冒頭に妙な形のトロフィーが映ったと思えば中盤の戦闘中に意味深に再登場し、「おいおいまさか…」からの予想通りな発動には吹き出しかけた(笑)
そんな馬鹿な数々を大真面目にやり続けた結果、それが段々とエモーショナルに見えてくるのがすごく不思議でした。

そんな感じで映画全体は馬鹿でカオスで唐突で頭フル回転させても追いつけないものなのに、物語の根底にあるものは「愛」「どんな自分や相手でも好きになれば良いじゃん」という肯定的なメッセージ。思考停止寸前の脳にそれがじわじわと心に伝わり、混乱と同時に涙が滲んだのは今までに無かった経験でした。
人間誰しも何かを決断した時に「あの時こうすれば良かった」と後悔するものですが、その分岐の先に想像もつかない自分の姿がマルチバース内に同時に存在している、という考えにはちょっと可笑しくて救われるし、後悔を抱えている人達への応援にもなっていて、そこにすごく感動しましたね。


でもすごくないですか?
混沌が極まってゆき黒幕の目的や物語の現在地も分からなくなってしまったのに感動できてしまうなんて。
今まで見てきた映画はしっかり筋書きを理解したうえで感動にたどり着いていたのに、本作にはそれがない。しかし理論ではなく感覚でも人を楽しませて感情を揺さぶることは出来る、そこに映画の力を見た気がします。
色々拾えない部分も多かったので、解説を読んだうえでもう一度見に行きたい映画です。


ただ画面全体の激しいフラッシュやワンちゃんの扱いが雑すぎる場面があるので、そこは要注意。
シマすけ

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