シマすけ

すずめの戸締まりのシマすけのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.9
【悼む旅】


なんだかんだで「君の名は。」から見続けている新海誠作品。隕石、水害ときて遂に東日本大震災が題材になりました。これほどのメジャー作品でまだ傷の癒えていない震災を主題にしたあたり、新海監督の強い覚悟が伺えます。
実際津波の場面こそ無いとはいえ被災地の惨状が生々しく、幻想的にさえ描かれており、緊急地震速報を模したチャイムも頻繁に流れるので身構えた方がいいかもしれません。

まず思ったのが大震災という我々に深く刻まれたトラウマを、監督なりに癒すか昇華しようとしたのかなということ。
「異世界と繋がる扉から漏れ出した超巨大ミミズが起こす大地震を、閉じ師という人間が扉を閉じることで未然に防ぐ」というファンタジーに再構築することで、どこか震災に怯える人々を安心させようとした気がするんですね。
その一方で巨大ミミズの恐ろしさをしっかりと描くことで、ミミズが地震を起こす前に鈴芽と草太が扉を閉じれるかという手に汗握るスリルがありました。

ふたりの道中もコミカルでロードムービー的な楽しさがあり、その裏で不穏さが渦巻いている…そんな感じでした。
途中鈴芽たちが立ち寄る土地で、そこに染み付いていた人々の日常の声を聞く場面があるのですが、いずれも現実で過去に大災害が発生した場所であり、かなりクるものがあります。その声に鈴芽と草太はどう応えるのか…これこそが今作で伝えたかったことなのでしょう。


「君の名は。」「天気の子」と比べてアクションの迫力が強めであり、どこか切なげな空気と音楽が心地よく染み渡りました。


今年のレビューはこれで終了します。それではまた映画に恵まれた来年を。
シマすけ

シマすけ