かつきよ

すずめの戸締まりのかつきよのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.7
面白かった!んですけど、

これはなんというか、面白かったとか面白くなかったとかそういう単純な作品じゃなくて、エンタメ業界の業を感じるような作品。

価値ある作品だと思うけど、この手の作品を世に送り出す役目、新海誠先生が担っちゃったんだ……というのが正直な感想。

とにかく、映画のことをなんだと思ってるのか、アニメ映画に何を求めているのか、……何よりも新海誠監督に何を求めて期待していたのか、で意見が割れる映画だと感じました。

面白いって人も間違ってないし、つまんないって言ってる人も間違ってないと思うので、自分なりにこの映画が持つ属性について、なんで面白いと思うのか、なんでつまらないと思うのか、つらつら書いていこうかなと思います。

◆三つの柱

映画を構成するものってすごくたくさんの要素があると思うんですが、今回すずめの戸締りの話をするのにあたってピックアップしたいのはその中の3つ。

一つは「作家性」で、「新海誠成分」とも言い換えられるような、監督らしさ。

二つ目は「娯楽性」で、ふわっとした言い方で広義になってしまうのですが、ここでいいたいのは単純に「大衆向け」に作られてる度合いです。例えば、抽象度が高くて、伝わる人にしか伝わらないような難しい作品は娯楽性が低いと言えると思います。逆に、誰が見ても笑えるようなわかりやすい4コマ漫画なんかは娯楽性が高いって感じですかね。

三つ目は「社会性」で、教訓的なメッセージ性とか、道徳的だったり、真面目なテーマがどれだけ盛り込まれててメインの要素になってくるか、という点です。

もちろん映画を構成する要素ってもっと膨大にありますが、今回はこの三つに絞って考えてみようかと思います。


◆「作家性」「新海誠らしさ」

「君の名は。」から、新海誠映画に関して議論され続けているのがこの軸です。
作家性って、つまりその作家の癖とか、執着するモチーフとか、作品の傾向とか、色とか……いわば作者のエゴのようなもので、作品の魂に相当するものだと思っています。

エゴが出過ぎると作品が内向的になりすぎてて、大衆向けではなくなります。共感できる人には共感できるだろうけど、わからない人にはわからない世界だから。そういう作品って、カルト的な人気が出たり、ニッチな需要を獲得したりはしても、一般ウケみたいところは狙えないですよね。どちらがいいということではなくて、どちらも需要があって、どちらも必要とされてます。

新海誠さんの過去作品……秒速〜だとか、言の葉の庭は、鑑賞した瞬間、私は「作家性」ってやつをバチバチと感じました。
この作者、絶対結婚できない……と思いました(大変失礼ながら結婚されていましたが)
そのくらいイカれてる人が作った映画だと思ったんです。
監督は、現実世界で生きていくの、大変だろうなと、生きるのが大変な人だろうなと感じました
感性が繊細すぎる気がしたし、世界に対する感覚が生々しい気がしたし、偏執的なこだわりが作品から溢れてきていたし、少し歪んだ特殊性を孕んだ性癖が作品にぶつけられているのがばちばちに伝わってきたんです。だからこそ脳に刻みつけられるような衝撃だったし、この人にしか作れない作品だ……と思わされた、映像作品で、作家性に殴られるような感覚に陥りました。

人によっては、全然伝わらないだろうなぁと思ったし、かなり内向的で歪んだ作品なのに、それがこちらに噛みついてくるような感覚でした。
この後上げる二つの要素「大衆向け」と「社会的メッセージ」なんてクソ食らえと言わんばかりの、弾けるようなエゴが浴びられる作品だと感じました。

大衆向けであることと作家性の高さって通常は高純度なまま両立できてなくて、大抵の場合どちらかが高くなればどちらかが低くなると私は思っています。

「君の名は。」以降の作品はこの「作家性」がどんどん薄れている気がして、だいたい「最近の新海誠監督作品はつまらない」っていう人がいるのは、過去のニッチさ、いわば「作家性」に魅力を感じていた人なんじゃないかなと思います。
なんで大衆向け作品に傾倒していったのかとか、戦犯は誰なのか(多分川村元気さん)とかは差し置いて、とにかく今作はこの「作家性」が、こんなに排除される!?こんなに他人のこと考えて映画作れるの!?そんなやっちゃうの!?って私は思いました。
自分のために作った映画というよりは、「皆のため、世界のため」に作った映画。語弊を招くことを承知で言えば社会福祉的な映画だと思ったし、道徳とか倫理の授業の教材にできる事と娯楽性の折衷点を水準として目指した映画なのかなと思った訳です。

◆「娯楽性」「大衆向け」

前項目で触れた通り、作家性はなりをひそめた、ということは、それだけ大衆向けに洗練された映画になったというのも事実。好みの問題はあるし、もともとがニッチな作品を作っていたのだから古参ファンからは賛否両論でしょうが、結局大衆から支持された方が売上規模は上がるし予算も組めるし次の作品を安定して作れるし、社会的に「成功」したって言えるんですよね。

逆に初期で大衆向けに傾倒した作品を作って評価を得て、徐々に内向的でニッチで共感性の低いフェティッシュまみれの映画を作ってるアニメ監督が細田守さんだと思います。未来のミライなんかはただの細田さんの育児日記みたいな感じでさすがに自我が強すぎて私は全く楽しめませんでした。
新海誠監督はその逆で、過去の方がエゴな作品を作っていて、最近の作品の方が大衆向けだと感じます。

今作は、監督が好きそうなモチーフとか要素、設定は絡めながらも、魔女宅を意識した(公式でも発言があったかと思います)人々との出会い、触れ合いのロードムービー的な要素とか、各目的のための全国行脚とか、現在と過去が繋がるミステリ的な伏線とか、ラブストーリー、アクション、エンタメとしてはかなりいいとこ盛り合わせで良質な映画だったんですよね。
特別刺さる事はなかったとはいえ、面白かったかどうかで言ったら間違いなく面白かった。
わかりにくいところ、考察が必要な所は多々あったけど、大筋のストーリーに関しては誰が見ても同じところで泣いたり笑ったり、同じような気持ちになれる、非常に「わかりやすい」映画だなと思いました。映画鑑賞中、何度も「し、親切だ〜!(全体的な作りが)」と思いましたもん。
この映画の特徴の一つは、バランスの良さと一貫としたまとまりがある所だと思います

多くの人が見るのが前提で作品が作られている、と思います。
受け取り方は人それぞれになるような、方向性を提示しない映画と、その逆に方向性をある程度示す映画があると思います。今作は圧倒的に後者ですね。そうならざるをえなかったのは、第三の要素によるところが大きかったと思います。

◆「社会性」

今回の映画、先にも書いた通り、教科書にできるんじゃないかと思うほどに社会的メッセージが多い映画だと思いました。
前々から隕石衝突とか天気とか、災害については意識的にか無意識的にか関心があったのは確かだと思います。
ただ、前までの作品は、物語があって、その舞台装置として大きな形でそうした災害がドンと組み込まれている印象でした。

しかし、今作はなんというか、もはや災害が物語の根幹というか、前提に存在している作品ですよね。避けては通れないというか、物語の装置というより、災害について描くために物語が組まれた、、という感じがします。

震災や災害、戦争を題材にしたショッキングな作品は、それだけで価値があると思います。感情ってナマモノだと思うので、過去の忘れてはいけないような出来事って、触れないでいるとどんどん薄くなっていってしまう。失ったもの、悲しみ、喪失感、絶望、希望、人が生きる力、そういうものを思い起こさせる作品は、映画であれ、漫画であれ、小説であれ、大事。
ただ、人は選ぶと思います。映画には娯楽しか求めない!なんでわざわざリアルのどうしようもない時日を再認識しなきゃいけないの!って人もいると思いますし。メッセージ性はあった方が作品の深みは増すけど、娯楽性とメッセージ性のバランスが逆転すると一気に属性が変わりますよね。

今作に関しては圧倒的にメッセージ性が強くて(もちろん娯楽性も多分にあります!)、ええ、深海監督、こういう作品を作る側の人間になったんだ……と強く思ったんです。

◆その他感想

考察できそうな点が多かったけど、公式のインタビューとか冊子とかで大体表現については新海誠監督が語ってくれてるなと思いました。

大筋はもちろん、細部の解剖なんかもファンが多く行ってるし、深掘りしやすい映画だと感じました。

◆すずめちゃん

自分が死んでもいい!というキャラクタ、本来はあんまり好きでは無いのですが、雀ちゃんに関してはその身を持って「生きるか死ぬかは時の運でしか無い」という価値観が形成された結果なのだというところが痺れました。

天災だとか、命をテーマにした作品なら逆に命は尊いものだ!という価値観を持った主人公像が生まれそうなものですが、そのあたりの、現実の冷たさや、突き放したような価値観を、この一件明るそうなファンタジーの軸に持ってくるの、鋭いなぁと

◆気にならないといえば嘘になる

北斗くん自体は好きですし、本職じゃ無い声優さんにしては十分すぎる演技力だったと思いますが、今回ばかりは作品がシリアスすぎた気がします……若干足りなさを感じてしまいました
プロ声優によるクオリティの担保、もう少し欲しかったなぁ

すずめちゃんは作風にも合っててとてもよかったと思います
石田ゆり子さんもすばらしい
1番びっくりしたのは神木くんですね
自然すぎてもう気が付かない、神木くんだなんて
普通の声優さんだと思いました
かつきよ

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