かつきよ

さがすのかつきよのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
3.4
わかっていたけど!!
傑作!!だけども……!好きかと言われるとそうではない名作映画でした。

私は、日本の傑作映画の特徴って独特の湿気がある事だと思っているのですが、まさしくそれが凝縮された映画でした。

間違いなく名作……なんです。

(日本ではないですが)ポンジュノ監督とか、是枝監督とか……吉田修一作品とか、そういうのが好きであれば間違いなく刺さると思いますよ(私は全部、好きだけど苦手です)

◆雑感

素晴らしい出来の映画でした
伏線あり、人物描写も深く、ストーリーラインは明快ながらも伏せられてる情報の余白はあるので誰もが考察したくなる……というか、いやでもあれこれと考えてしまう内容。

⚫︎胸糞
⚫︎閉塞感
⚫︎社会問題
⚫︎自殺・快楽殺人
⚫︎歪んだ性癖
⚫︎クズ
⚫︎登場人物全員可哀想

こんな映画。
2回目見たいなと思えない、とっても酷な内容の映画です。内容や方向性を事前に知っていて、趣味の合う友達と見るのならばもちろん構いませんが、基本的に軽い気持ちで親恋人友達と軽い気持ちで見ると100%気まずくなるだろうなという映画です。

「人の見たくないものを撮る」と監督が発言されているそうですが、こんなにも有言実行しなくても。

◆胸糞……だけどそれだけじゃない価値

胸糞というのはそうなんですが、ただ人を不快にさせたいだけの下品な映画とは感じませんでした。
映画を見て、監督の人間性を疑うような事もありません。それだけ芸術的で、鮮烈な映画なんです。
見た後、見たことは後悔しませんでしたし、どこか整然とした鑑賞後感すらあります。というか、呆気というか、なんというか……見た人によって感想は変わりそうだなぁ

特に誰もが印象に残るであろうラストシーンは、圧巻でした。途中「こういう映画なのか……」「これは思ったより激しすぎるぞ」と頭を抱えたものですが、それでもラストシーンを見たら「この映画、見る価値が確かにあったな」と思えました。

終始シリアスで、なかなかにパンチの効いた内容だったのですが、所々にユーモアを感じるやり取りや演出が織り込まれていたのが印象的です。
funの意味で面白い、という感想を抱くのは憚られる映画なのに、容赦容赦で気が緩んでしまうんですよね。その塩梅も絶妙だったと思います。

◆佐藤二朗さん

この映画の核ともいっていい、かなりケレン味のきいた配役だと思います。
佐藤二朗さん、ご本人も惚けた感じのユーモア人なイメージが強く、配役と病的なまでにコメディに寄った突飛な人物のイメージが強くて(しかも私が知ってる限りでは作品が近年に近づくほど強度が強くなってる気がします)、そんな彼がシリアスな演技をするというのも個人的な見どころではあったのですが、これがまぁ、引き込まれるかちりとはまった配役。

大きな娘を持つ父でありながら、酒飲みで万引き常習犯というクズっぷり。冒頭では碌な見せ場もなくすぐ謎の失踪。
佐藤二朗さんの演技が絶賛されていて、ポスターでも彼が1番目立ってたので、てっきり犯罪に巻き込まれた娘を父が探す展開になるとばかり思っていました。なので初見の感想としては「お前が失踪するんかーい!!」

犯罪に巻き込まれたのかなぁなど、軽く想像をしつつ、映画を見ていくと、徐々に明らかになっていく智の過去に愕然としました。彼の苦悩、過去、結末、全てが圧巻。
隠された秘密が明らかになっていく、という意味ではミステリーやサスペンスなのかもしれませんが、明らかになる過程よりもその内容の重さが酷すぎて、全然サスペンスとしての面白さは感じられませんでした。この映画の、ヒューマンサスペンスとジャンル分けされているところもありますが、そんなことより社会派要素もあるヒューマンドラマだろって思ってます。

◆ムクドリさん

この映画見てムクドリさん嫌いにならない人いないでしょ!と思いました
パンチ効いててかなりいいキャラ。本来、そんなに好き!って感情向けていいキャラではないと思うんですが、それでもなんとなく憎めな意味力が詰まってますよね

◆総評

他のキャラについてはネタバレになるので後半で

とにかく、傑作には間違いないので、雑感時点で「そういうの好き好き!」と思えた人はぜひ見てみるべきだと思います

以下ではネタバリあり感想を




















※以下ネタバレあり

















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※ネタバレあります!
















◆智

ALSの妻の看病……
妻のことを必死で看病する姿も、妻が自殺しようとするのを見るシーンも、妻を殺そうとするシーンも、全てが格別に辛い
全体的に辛かったですが、このあたりの倫理観が試されるリアルな画面は、個人的に1番心臓にきました

山内に唆されて妻を殺すことにするわけですが……その選択、すくなくとも私には責められないなと思ってしまいました

自分のした事の恐ろしさはわかっているはずだけど、彼は彼なりの正義感があって行動しているキャラだというのが伝わってくる不思議なキャラ像です。

ビビりながらも、裏切りを画策しながらも、山内の信頼を勝ち取れたのは根っこの人柄が良かったからに他ならないと感じています。
ムクドリさんが死ぬ前に彼と過ごした一連のシーンは、映画の中で最も好きなシーン。この映画から異質な優しさが伝わってくるシーンでした

最後は金のために2人の人間を手にかけるわけだですが、山内は殺した方が世のためになるし、ムクドリさんはかなり躊躇してたけど頼まれたから覚悟を決めて手にかけた感じでしたよね。
やってることは絶対アウトなんですが、悪者!って割り切れない、人間臭さがありました

最後はやはり、正義感+お金の為に自殺サイトの運営を続けていたのでしょうか??
衝撃の展開だったので、気になるところです
もういいじゃん、あのまま終われば、よかったじゃん、と思ってしまいましたが、もう片足以上沼に突っ込んでしまったので、あの後は堕ちるしかなかったのですかね

◆山内

変態殺人鬼
智の妻殺しも、そそのかしておいて、自分でやらせて金ももらうというドクズっぷり
自殺を手伝うと言ってお金をもらってさらに快楽殺人までこなすドクズ変態
彼の過去はそんなに明らかにはなりませんが、こんなにクズなのに、胸糞ヴィラン、というよりは可哀想なやつという印象が強い

たすけてもらったオッサンとちょっと仲良さそうにしてた時……そしてその後惨殺しておっさんにソックス履かせて自慰する狂気
落差よ
実際の殺人鬼の色々な要素が詰め込まれているだけあって、THEフィクションという狂気的なキャラクターの中にあっても妙なリアリティが存在してて、とにかく気持ち悪かったです

それでも、なんだかんだ智を信頼しちゃって、ビールまで用意しちゃって、裏切られて死んじゃうシーンは、可哀想と同情の気持ちがゼロではいられない。監督、本当に撮り方上手いです
全員可哀想、こんな映画なかなか撮れないと思います

◆ムクドリさん

みんな大好き(根拠はない)ムクドリさん
山内が言う通り、(自殺志願者の中に)本気で死にたい奴なんて誰もいなかった……というのがリアルだと思います。
智の妻は本気で死にたがってたとは思うのですが、でも死ぬ直前に、事切れる刹那に、後悔とか拒否の気持ちは芽生えなかったのかと思うと、それはわかりませんし、やっぱり生きたいって気持ちも生まれちゃったんだじゃないかなとか、思ってしまう

答えはわからないけど……そんな中で、鮮烈なまでに死に執着して、最後まで意思を貫いたムクドリさんのダイヤモンドより固い決意と絶望よ

すごく自分勝手だし、破綻してるし、そもそも本気で死にたいのに自殺もできずに、お金払ってまで他人に死なせてもらおうとするなんて、絶対死ぬ前に後悔するじゃん
そんな期待を鮮やかなまでに裏切って裏切って、最後まで貫いてくれるムクドリさん
ある意味、作品の唯一の救いだな、とさえ思えるんです
この作品の中だけで終わっちゃうのが勿体無いくらい魅力的
でもここで完結してるからこそ、こんなにも魅力的なんだと思います

死にたくはないし、彼女の事神聖視したいわけでもないし、認めたいわけでもないんですが、それでもその意思は、気高いなと思っちゃいました
死の恐怖も痛みも苦しみも、何度逃れられても追い求めてしまうほどの絶望ってどれほどのものなんだろう

好奇心で覗きたくもならないほど深淵です

◆楓

正義感が強く……といっていいのか、、、
とにかく、父想いのいい娘さんですが、理想の良い子なのかと言われればそういうわけでもない、父と同じく人間臭さがありましたよね

その驚くべき行動力たるや!蛮勇とも取れるほど激しく、物語全体を縦横無尽に駆け回っていた印象です。主人公としてこれ以上ないほどハマってたとは思います
しかし、冷静に考えると、物語ではもっとも可哀想な子
なのに、可哀想という言葉は全然しっくりきません。すごい子だなとか、強い子だなとか、そういう感想の方がしっくりくる

果敢に連続殺人犯を置い、ズボンを脱ぎ捨てさせるど根性から好感が持てるのですが、最大の論点はやっぱりエピローグですよね

◆エピローグ

この映画で語らないわけにはいかない、伝説のエピローグ

お金を掘り出して、ほとんど偽物でたったの数万円しか手に入りませんでしたという、やってきたことに対してのあまりの結果の悲惨さで映画自体はオチてるわけです

結局褒賞されて
卓球ジムもなんとか立て直せて、自転車操業なのかもしれないですが、以前よりもまともな父親になれて、後ろめたさはあるけど、こんなもんって終わり……なんだと思ってました

ここまで見た感想は、まあ、あってもおかしくない映画だなーってくらいです
完全に終わったつもりでいました

しかしそこからの、まさかの娘からのコンタクト

どうオちるのかまったくわからず、混乱しました
娘が病んで本当に自殺を考えてて、たまたまお父さんに連絡したのかなとか

でも、あれはそういうことじゃないですよね
最後の
なんというか、
最後の審判というか

そういうのだったのかなと思います

父娘のラリー、印象的すぎて、脳に焼き付けられました
こんな画作りができる監督、世界に何人いるんでしょうか

ラストに関しては、私は楓は父のことを通報して、この後父は逮捕されるのだと結論を出しました
しかし、見ている間は、え?どっち???となりましたし、「いや、あれは通報してないよ!」と言われたら反論はできないです
だって、そこまで描かれてないし、絶対にわざとどっちか結論を出せないように作られてなぁという、監督の意思を感じたからです

あの引きは痺れました

「お迎えが来たで」

これは、ユーモアなのか。それとも🧐



【参考】

https://filmaga.filmarks.com/articles/171237/

かなり鋭い目を持って映画を見てるなと思った記事です。
山内のモデルとなった殺人犯や、公式の監督の発言からの情報なども載っているので映画の解像度が上がります

細かい演出にまで言及されていて、そのどれもが目の付け所がシャープですので、映画を見た方は一読の価値ありだと思います
かつきよ

かつきよ