かつきよ

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊のかつきよのレビュー・感想・評価

4.3
ベネチアの亡霊

見てきました、ケネスブラナー版ポワロ最新作!
面白かったー!
ホラーテイストをふんだんに加えたミステリ映画

オリエント急行の時のわかりにくさはどこへ行ったのか。登場人物もストーリーもわかりやすく、ミステリとしてもキッチリと楽しめる傑作でした。前作(ナイル殺人事件)も面白いと感じたのですが、どんどん良くなってますね、ケネスブラナー版。
相変わらず画角の抜き方は芸術的。3作品通して異なるテーマを描いていて、演出や雰囲気もそれぞれで結構に違うのが、個人的には好きです。

⚫︎水の都ヴェネツィア×ハロウィンの亡霊

今作の肝はやはり殺人の舞台。
水路張り巡らされるベネチアのある屋敷。ハロウィン、暗闇、嵐、亡霊。
オカルティックな雰囲気に包まれた舞台で、オカルトvs名探偵の不可能犯罪と灰色の頭脳の対決!!
オカルトvs探偵は鉄板のテーマですが、ポワロシリーズにもこんな話があったのですね。原作の雰囲気はわかりませんが、ケネスブラナー版は音やカメラワークを豪華に使ってホラーテイストに仕上げられていて、「本当に全部人間の仕業で解決するのかな?」と思うくらい濃厚にオカルトホラーティックな世界観が作られていました。

犯人やトリックがあからさまだった前作とは違って、犯人もトリックもなかなか最後まで分からなかった!
ケネスブラナー版、どんどん進化してる!!!
次回作もとっても楽しみになりました!
ケネスブラナー版のポワロ、もっと見たい!

⚫︎ポワロの髭問題

前作のラストで髭を剃ったポワロ、どうなるのかなと思ったら今作ではまた髭をはやしてましたね笑
まあ、髭がなかったらぽわろじゃないですもんね
そりゃそうかと

⚫︎導入だけやや不親切

ナイル殺人事件でショックを受けたポワロ、他にも理由があるのかもしれませんが、探偵業の引退宣言をしてベネツィアに隠居してるところから始まるんですね?特に詳しい説明がないので、あーそういうことなんだーと思う程度でしたが、もう少し冒頭でスムーズにその事実を教えて欲しかったです。
今作から登場したボディガードのヴィターレも、わりと重要キャラであるにも関わらず、あたりまえに存在していて「アンタダレヨー!」状態
もう少し冒頭で関係性をちゃんと教えて欲しかったですね

⚫︎ホラー演出について

前評だと、ホラー映画ばりに怖い!!という噂だったので、ほぼホラー映画だと思って見に行っていたのですが、思ったほど怖くなかったです。
ジャンプスケアも確かにありましたが、数箇所程度
んー?全然怖くないじゃん、という感じでした
ただ、「やっぱりホラー苦手な人は見るのをやめるレベル」だとか、「ミステリーにホラー演出はミスマッチ」というような意見は散見されますので、ある程度は覚悟が必要なのかなと

⚫︎ほぼ完全オリジナル

調べえわかったことですが、原作にモチーフとなる作品はあるものの、内容は大改変しているらしいですね!
比較記事とか見ようかと思っていたのですが、あまりにも内容が違っていそうだったので「あ、ちゃんと小説読もう」と思いました

しかし、改変してほぼ設定組み替えてこのクオリティのミステリー作れるのは正直に驚きました
表面的な人間関係と、物語が進むにつれて明るみになる裏事情部分のコントラストが素晴らしい。
かなり複雑というか、絡み合うような練り込まれた設定を、物語の進行とともに紐解かれていく構成が美しいです
複雑にしようとすればいくらでもできそうなものですが、最初から「ええ!?」「そうだったの!?」という情報が飛び出てきて、それが最後まで続くので
エンタメとしてかなり出来上がったものを見せてもらったなというのが正直な感想です
アガサ・クリスティの素晴らしい原作ありきだと思っていたのですが、そこがかなりオリジナルだとなると話は別で、脚本すごいなと……
どの程度まで原作から引っ張ってきているのかもわからないので、原作読んでみたら改悪部分もあるなとか思うのかもしれませんが
今のところそう言った意見も見ないので、いやー、いい作品ですよ
ホラー演出のせいで評価下がってるような部分は本当に勿体無いです

⚫︎雑感

オチまで、ミステリーたっぷりの非常に満足度の高い作品でした
賛否分かれるホラー部分も、個人的には◎
今までの作品と打って変わった雰囲気と、また異なる「愛」のテーマ
そしてポワロの「再生」の物語として、素晴らしい作品でした
是非ともブラナー版ポワロ、続編見たいですので売れてくれーと思いました!!
気になる方は是非!!!!
ホラーが特別苦手な人は注意!普通に見られるよって人からしたら「何が?」って感じだとおまいますので
是非見てみてください!





※以下ネタバレ感想











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※ネタバレ有り











⚫︎アリアドネ

今作のキーパーソン
ユニークなキャラが仲間入りしたなと思いました
旧友の推理作家が話を持ちかけてくると言うところで物語が動き出すのがまた面白い

面白かったのに……

⚫︎ロウィーナ

恐ろしきかな母の愛
最後まで彼女が犯人だとはわかりませんでした
娘に対する慈愛深い母の印象が、ラストまで見ると狂気的な執着に見えてくる
残酷な母親像は代理世ミュンヒハウゼン症候群を扱った作品含め、まあ、いい方向にも悪い方向にも様々ありますが、ホラー×ミステリの文脈でこのテーマを鮮やかに描いていたなと

⚫︎霊媒師レイノルズ

明らかに胡散臭いのだけど、まさかの霊媒トリックを序盤でポワロに看破されてびっくり
もう、この話終わったじゃん!!と思いきや、迫真の声真似と狂人演技でインチキ霊媒を続行する胆力に驚嘆
絶対嘘とわかるのに、それでもここまでやられると逆に怖いだろうと。
登場人物誰もがトリックとわかってるのに茶番に付き合ってたのは、最初見た時は少々違和感でした。すぐこんなやつ追放しろー!と思ったのですが、それぞれのキャラクタに思惑があったためにあの場は嘘とわかっていても乗るしかなかったんですね。こう言った伏線というか、設定に忠実な違和感の演出も鮮やかでした。
(追放したかったけど、あまりの迫真の演技に皆様ドン引きしてしまっただけかもしれませんが)

さてここからこの霊媒師がどう関わってくるのかと思いきや、なんと即殺人の被害者に
どういうことなの!?と加速していく物語から目が離せませんでした

⚫︎若きシェフマキシム君

明らかにヘイトが剥きそうな当て馬犯人候補役
まあ、あやしすぎるし犯人じゃないだろうな、というのはメタ的にもわかるのですが、アリシアと本当に別れた理由というのは割と衝撃
裏にある設定というものを推理という形で紐解いて行って、キャラクタの印象や舞台の印象が変わる、そして真実に近づいていく演出の一つとしてしっかりと機能しているキャラで、素晴らしいと思いました

⚫︎フェリエ医師

今回の被害者で一番可哀想な人
挙動不審なキャラクタ性も、検死失敗の伏線として十分でしたし、軍医経験があるという設定の細かさと被害者として選ばれは理由がリンクするのがいいですね
実際は違う理由で殺されたのですが、亡霊に沿って物語が進行するのが鮮やかです

密室のトリックは至ってシンプルでしたが、割と衝撃的
あんなに神経衰弱しててまともな判断もでき無さそうというか、ぶっちゃけていってしまえば、弱そうなキャラクタでしたが、息子のためならば自殺できる度胸があるのはあっぱれ
息子への愛は本物だったんですね
だからこそ、真相を考えるとさらに辛いものもあります

⚫︎レオポルド君

今作のVIP
早熟で頭の切れる少年というキャラクター性はハズレがない
聡明なキャラクターだなと思えましたが、ラストの真相についてはこの映画で一番好きな部分です
脅迫状を送ったのはレオパルドくんで、彼は父が検死を誤ったことも、アリシアの本当な死因も見抜いていたのですね
それで、父親のために金を強請っていたと
なかなかの食わせ物なのですが、なんというか、レオポルド君、どうにも嫌いになれません

加えて、それが原因で父親が殺されてしまうというのは、なんとも酷な物語

⚫︎ポワロの孤独

ブークを失って隠居したポワロ
旧作映画ではたまにバディが現れたりして、変人ではあっても友好関係は狭くなさそうな雰囲気のポワロ像でした。一方でケネスブラナー版はとにかく従軍経験や過去の背景のオリジナル設定が濃く、人を避けるかなり曲者なキャラクタ演出もされているので、常に孤独の中戦っている印象が強いです。
今作では新たにお転婆そうな旧友キャラクターアリアドネと、出会いや友情は描かれないもののどうやら絶対的な味方ポジにいるのだなという感じのヴィターレさんが参戦し、バディではないにしてもこういう味方キャラいるとやっぱりいいなと
思っていたのにも関わらず

アリアドネは自分のヒットのためにポワロを食い物にしようとするし、それを手引きしてポワロを裏切るヴィターレも結局味方ではないですし

結局今作においてもポワロは孤独なのか……と思わせる演出に衝撃です
ケネスブラナー版ポワロはとことん追い詰められますよね。今作なんか間違って殺されかけるし
監督自らが演じてるからこそ、ポワロ像と自分の演じるポワロ像を明確に切り離してこんな脚本が書けるんじゃないでしょうか
自分で演じてなかったら、国民的キャラクターをここまで酷い目に遭わせるのに抵抗心が生まれる気もします

⚫︎蜂蜜パワー

結局作中で起こった不思議な出来事のほとんどは蜂蜜の幻覚作用として処理されました
あんなに強力で即効性のある幻覚作用とか都合いいものあるかな?と思ってしまいましたが、平和に生きているので忘れがちですが、以前アムステルダムの合法ドラッグを描写した小説を読んだ時たしかにぶっ飛んでたので、幻覚作用って冗談じゃないんだろうなって思います
ドラッグ怖いですね

⚫︎幽霊はいたのか?

ラストで疑問に残るのはこの命題
考察材料としては以下の3点が挙げられると思います

・アリシアを見た順番
・ラストの亡霊
・カップとソーサー

まず、ポワロがアリシアを見た順番です
不思議な出来事はたいてい幻覚作用のせいだと片付けられますが、ポワロが幼少のアリシアの霊(らしきもの)を見た時、ポワロはそれが誰だかわかりませんでした。後に写真でアリシアを見て、さっき見たのはアリシアだったんだ、と気づくのです。
いくら幻覚作用があるからと言って、知らない顔の人物の幻覚を見ることができるでしょうか。
これは、幻覚作用と見せかけて、霊はいるんだよ、という伏線の意図がある演出な気がします。

ただ、幻覚として処理しようと思えばそれも可能です。
ありがちなのは、無意識にアリシアの写真をどこかで目に入れていて、それが亡霊の幻覚として現れたパターン。
あとはこじつけ臭くなりますが、ポワロは亡霊という前情報から、少女の霊を見たと思い込んで、その後でアリシアを見た時に記憶が結びついて少女の霊→アリシアと思い込んだパターンです。
映画的には少女の霊の時点でアリシアの写真と同じ役者を起用していますが、ポワロ視点ではただ漠然と「少女の霊を見た」という記憶だけがあって、アリシアの顔を写真で見た後に「さっきのあれ、絶対アリシアだ!」と記憶の中の霊の顔確定した感じですね。
そんなことある?と思えなくもないですが、幻覚みてるとしたら十分あり得ると思います。実際映画を見た私たちも、少女の顔は初出でしたが「誰……?アリシア……?」と思ったはずですから、思い込みってそんなものなのではないでしょうか

と、つらつら書きましたが、私はどちらかというと、監督は「亡霊はいた」というオカルト的な匂わせがしたかったんじゃないかなと解釈しています。
ラスト、母を誘うように現れたアリシアの亡霊も、それのひとつではないかと。
一応、犯人である母の死に対して、娘は母を恨んでいる(あるいは執着している)のだから、その亡霊は母を死に誘ってしかるべきだ、という登場人物の先入観から見えた幻覚の可能性も完全には否定できません。
このシーンは、幻覚、本物、どちらとも取れる演出だったかなと思います。
幻覚?本物?どちらだろう、そう思わせること自体が目的のシーンだなと思いました。

【参考】

https://cinemarche.net/suspense/venechianobourei/

わかりやすいあらすじ解説
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