うーん、この映画に関しては、正しい見解を持って鑑賞しないと混乱すると思います。
個人的には、ファンメイドのリスペクト作品としては拍手したい気持ちですが、大衆向けの映画としてはこんなもの作るなという気持ちも捨てきれない作品でした。監督の意思なのかどうかは分かりませんが、少なくともシャイニングの続編という触れ込みでの宣伝はずるいというか、ダメだろと思います。そうするしかなかった理由もわかりますが。。。(後述)
◆キューブリック版シャイニングの続編ではない
まずはっきりさせたいのがこの点。
キューブリック版のシャイニングは、原作者の手から離れ、完全にキューブリックによる解釈と独特の世界観が展開され、隔絶され、単体で完成された映画でした。
あの続編は誰にも作れないと考えています。
そして、今作はそもそも、あの映画の続きを作ろう!と思って作られた映画ではないとも考えています。続編だとすると、設定諸々が破綻しているからです。
今作は、正確にいうなら、キング版「シャイニング」の続編であり、設定や物語の方向性、雰囲気は原作準拠です。
◆精神、ストーリー的には原作準拠
◆視覚、美術的には映画オマージュ
混乱の原因の全てはココ。
今作映画、明らかに原作準拠で作られているのに、それとは別作品と言っても差し支えないキューブリック版シャイニングに対するオマージュが強すぎる点。
ストーリー的に、キング作品として絶賛されているのはやはりキング版(原作やドラマ版)なわけなので、その続編を作ろう!と思ったところまでは良いと思います。しかし、そのキングが認めていないキューブリック版から美術やシーンをそのまま持ってくるのはどうなんだ
確かに美術、視覚的な意味で評価されているのはキューブリック版でありますし、そもそもドクタースリープを制作するにあたっては、その前作であるシャイニング(を原作にしたキューブリック版)があまりに偉大すぎたのでしょう。監督自身もファンだったのかなと思います。オマージュという意味ではもう、ノリノリで思った以上にやってんなぁと思いましたから。好きじゃなかったらあんなに取り入れないでしょう。
なので、よく言えば原作のストーリーラインといったキングの要素と、不朽の名作とされるキューブリック版の要素、いいとこ取りの映画だと思います
でも、いいとこ取りなんて到底思えないですね
好きなところだけ選り好みした中途半端なキメラ映画。ファンメイドで自分の好きなことだけやった自己満足作品……そんなふうに思えてしまいました。
◆映画版のドクタースリープを作るにはこうするしかなかった
しかし、仕方なかったなと言えば仕方なかったと思います。
というのも、ドクタースリープを映画化するってなったら前作を無視するわけにはいかない。まずシャイニングを原作通りに映画作品としてリブートして作り上げるのが順当だとは思うけど、シャイニングから作ったら制作費も期間も2倍かかる割にキューブリック版が有名すぎて比較されて絶対賛否両論だし、(ドラマ版がそうだったように)否定の声が多ければ商業的にコケそうだし、リブートするうまみが全然ないんですよね。
だったらもう、原作準拠にするのはそうだけど、キューブリック版の続編ってことにしてオマージュシーンもふんだんに入れて利用して、細かいところは改変して無理やり繋げて、原作ファンにもキューブリックファンにもどっちもみてもらえる(媚び売る)作品にした方が、話題性もあるし儲かるわけですし
もしかしたら逆かもしれないですけどね。キューブリック版が好きでその続編としてドクタースリープを撮りたかったけど、そんなこたしたら原作のキングからは許可絶対に貰えませんからね。だからストーリーや精神的にはキューブリック版を改変してもキングに媚び売るような準拠作品にするしかなかった。真実はどちらかはわかりませんが。
どちらにしても、そう思ったら1番賢い選択ではあるんですよね
商業作戦的には良手だと思います
キングさんもその辺込みでうまくキューブリック版を利用するだけ利用して原作の流れに取り込んだこと絶賛してるみたいですしね。
でも私はやっぱり、これを続編として打ち出しているのは、個人的には納得できないですねぇ
◆そもそもストーリーがつまらない
つまらないというと言い過ぎかもしれませんが、キャラクターの描写が下手くそ。キャラクタ一人ひとりに感情移入もしづらく、またあらすじ的にも先の展開が気になってゾクゾクするようなこともあんまりありませんでした。
ジャルンはなんなのか知りませんが、とにかくホラーではありません。ミステリでもサスペンスでもなく、悪鬼と超能力者のバトル漫画を見てるみたいな気分でした。
展開は大味で、それなりに盛り上がるし最強能力者のチートバトル譚みたいな楽しみはあります。しかし、エンタメにしては戦闘の際の勝ち負けの描写に説得力がない。作戦を練ったり、緻密な戦いというもの、説得力のある戦闘は行われず、展開ありきで勝敗が決まっている感じ。
正直途中まで、何を見せられているんだ?とずっと思っていました。
◆魅力のキャラがいない
ヴィランもなんか、小物っぽいというか、やっなることはえげつないけど、あんまり真に迫るラスボス感は無いんですよねぇ
ダニーはイケオジに成長してたので、そこは好き
ですが、酒女ドラッグな前半はちょっと可哀想でした
◆総評
この映画単体では見られない映画。
シャイニングの続編であることが大前提で、それは映画版ではなく原作版の続編だよという意識が必要
なのに、美術や舞台設定は映画版を死ぬほどオマージュしてますよ、というちぐはぐな複雑さを理解して覚悟してまで見るべき映画だとは思いません。
映画オマージュは素直にすごいなーとも思いましたし、感動しましたし、評価点ですが、オマージュが見たくてこの映画見ようと思ったわけではないので。
監督、頑張って原作再現とキューブリックオマージュできてよかったね
と他人事のような感想しか出てきませんでした。
以下、いくつかネタバレ有り感想です
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※以下ネタバレ有り
◆序盤
ローズが人から生気を奪ってること、トゥルーノットという存在、シャイニングの強い少女、トゥルーノットの残虐性
完全に映画版シャイニングとは別世界観の、フィクションっぽいホラーですが、それがダニーくんとどう関わってくるのかはわくわくしました
◆中盤
実際に物語が交差すると、アブラちゃんの闇落ちともいえるような超能力チートバトルが始まって笑いました
なんの映画見てるんだろって感じです
◆終盤
キューブリック版からバチバチに持ってきたオーバールックホテルを使って敵を撃退
かつての敵とか、前作のボスを今作のボスにぶつけてやっつけるみたいな構図は展開的にワクワクしました
キューブリック版でカルトにされていた現象のほとんどを例の仕業ときちんと説明するフォロー精神よ(私はどうかと思いましたが)
美術だけじゃなくて、人物、シーン、カット、映像、思ってた5倍くらい前作のオマージュがぶち込まれてて、あーーここまでやるんだ!とある意味感動はしました
間違いなく見どころではありますかね
◆トゥルー・ノット
残虐性は認めますが、狂気が圧倒的に足りない、悪党としての美学もない、圧倒的なパワーも感じない、ただの性格の悪い絶滅危惧集団じゃないですか。ゴリ押しの表現が目立ってたので、もっと引き込まれる悪役像欲しかったです
◆アブラちゃん
闇落ちフラグ濃かったですが、闇堕ちせずに済んで良かったですね
◆ぬこちゃん
かわいい
でも、私の枕には立たないでね
◆ラストシーン
もうちょっとラストにふさわしいシーンあったでしょう(個人の感想)