chidorian

TAR/ターのchidorianのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ネタバレは踏まないようにしたものの、難解だとか、ホラー映画だとか、様々な噂は耳に入っていたので、目をこらして注意深く観たつもりだったが、わからなかった。だからといってつまらない映画だとかそんなことは全く思わず、2時間半超を飽きずに観た。

マエストロと呼ばれる女性指揮者の転落人生、といったざっくりしたストーリーはわかるが、映画のキモは何なのか。何でそうなるのか。何を意味するのか。終映後、「はい、終わり。全部見せたよ。わかった?後は自分で考えてね」そんな風に言われている感じ。

で、考えた。パンフ読んでネタバレ解説動画とか観て、考えた。
注意深く観たつもりだったけど、見落としたもの、勘違いしていたものなどいろいろあり、それらを補完してようやく、あーなるほどそういうことか、とわかってきた。

ターは、指揮者としてはもちろん、生活のほぼ全ての場面で権力者だった。彼女は、その出自も関係してか、望んで権力を手にし、あらゆる場面で迷いなくそれを振りかざした。音大の教え子や娘の同級生や仕事仲間や同居しているパートナーやかつての恋人たちにも。

ターをケイト・ブランシェットに演じさせたのは、映画的には大正解。悔し紛れに言うならば、意地が悪い。もしターを男性が演じたら、バッハを聴かないと言った音大の学生が女性だったらどう感じただろう。単なるオヤジのハラスメントだ。いや、あの映画のままでも十分胸糞悪いと感じた人はいただろうが、私はそう思わなかった。ターにカリスマを感じた。それが悔しい。
さすがにチェロ奏者の若い女の子を贔屓にする辺りからは、ターの横暴さが目に余るようになったが、それまでの行いも全てが独善的で、他人を踏みつける行為を繰り返していた。

この映画は人によって解釈が違うだろう。大袈裟に言うなら、観る人の生き方を問うような映画だ。ターの行為をどう評価するか。私はもっと批判的に観るべきだったと思うが彼女に共感してしまった。それなりに目配りもし勉強もしてるつもりだったが、シスヘテロ男性として、強者の視点に慣れてしまっているのだろう。
また、ネガティブな意味でのポピュリズムにも想いを馳せる。ターのような権力者にカリスマを感じ、その横暴に目をつぶってしまう自分は、さぞ操りやすい愚衆のひとりであろう。

アジアのオーケストラでコスプレした聴衆を前にして、ターはどんな気持ちで指揮棒を振ったのか。再び劇場で確認したい。
スコアはとりあえず。機会があれば2回目を観てからまた。
chidorian

chidorian