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TAR/ターのMoviePANDAのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.8
『 ART OF LIFE 』

ボクの好きな映画のひとつ「ツイスター」🌪 この映画、今改めて観てみると色々と凄い!まず脚本をマイケル・クライトンが書き、製作キャスリーン・ケネディ&製作総指揮スティーヴン・スピルバーグの布陣。そのスピルバーグ作品常連のマイケル・カーンが編集を手掛け、主演二人が素晴らしいのは言わずもがな。また、若かりし頃のフィリップ・シーモア・ホフマン、そしてこの「TAR」の監督であるトッド・フィールドが俳優として出演している作品でもあったのです!

そんなわけで、ずっと心待ちにしていた「TAR」観てきました!噂に違わぬ、まぁ本当に凄い作品。あくまで現時点ではありますが、「フェイブルマンズ」と甲乙付け難い年間ベスト級作品だと思いました!内包したテーマ性の重要度で言えばこちらに軍配でしょうか。着目すべきポイントとして面白いのはそれぞれの監督の表明。スピルバーグ監督曰く「フェイブルマンズ」はあくまで自伝“的”映画であり、トッド・フィールド監督曰く「私は『キャンセルカルチャーについての映画を作ろう』と意図したわけではない」という事。ただ、どう見てもこの映画は“そこ”に斬り込んでいる様に映る。そして何より重要な事、それは我々観客側がこの映画をどう受けとめたのか。そこに尽きるのではないでしょうか。


「映画の解釈の権利はあくまでも観客にあると考えている。」トッド・フィールド


この調子でこの先もずっと行くのか?というある意味驚きのオープニング。そしてそれは、次のシークエンスも。主人公であるリディア・ターはコンダクター。いわば時間(とき)を操る者。なるほど、彼女はこの映画における時間をも操ろうとしてるって事か!監督が「現在も映画界には腐敗した権力は存在していて、その権力から不当な利益を得ている人がたくさんいて、人々は不幸な取引をし続けています。」と語る様に、この映画の主人公もタクトと共に権力を振りかざします。

この映画の面白い点。それは、
本来悪行であるはずのそれらの行いが、そうは見えなかったりもする事。それは女性が主人公だから?はたまた、自分の価値観にそもそも問題が?それらの疑問全てが監督の言う観客の持つ解釈の権利であり、この自分の中で解釈が揺れる様な感覚こそがこの映画の“肝”だと感じました。

フライヤーに沈みゆく様に書かれた文字。旋律、栄光、絶望、狂気。それらを現す様に全場面、全カットに間違いなく意味がある作り込み。また、低く響くヒドゥル・グドナドッティルのチェロによる旋律も彼女と呼応してます。ただ、個人的にこれは絶望だけの物語では無いと感じました。ここ二ヶ月で観た「ザ・ホエール」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:Vol.3」とも通ずるテーマ性。更に言えばそこには「新たなる希望」をも感じました。「新たなる野望」という見方をしても面白いかなと思います。何よりまさかの引用に驚いたと共に、“そこ”にそもそも偏見を持っていなかった我が国のある偉大な作曲家を思い出し、目頭が熱くなるラストでした🎧

とにかく色々な意味で、今年度最重要の一本だと思いますよ!🐼
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