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怪物のMoviePANDAのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
『 心のコンパス🧭 』

中学の頃、割とすぐキレる同級生がいた。
その子の事を親に話すと「あぁ、その子の暮らす地区が○○だからだわ。」とさらっと言われた事がある。その返答を聞き、その時は特に何とも思わず妙に納得してしまった自分がいた。しかし、大人になりその事を思い返す度、親が言っていた事と腑に落ちてしまった事に何て差別的だったのだろうとクヨクヨしてしまう自分がいる(○の中の言葉は伏せます)。

初めての是枝作品鑑賞。
カンヌ含めての話題性より、どちらかと言うと坂元裕二脚本という事で足を運んだ感。だから、この作品がそれまでの是枝作品の同一線上に位置する映画なのか、はたまた異質な手触りの作品なのか。僕には知る由もない。

その題名である事によるバイアス。
常時それを感じながらの鑑賞。それも織り込み済みである様に映る。単純な視点の映画では無いのだろうと思いつつ、まずは組織側が“そう見える”展開。しかし、要所要所に引っ掛かりもある。繰り返される駐車はこちらにも苛立ちを覚えさせ、感情移入が伴う程気付けば「こっちがか?」という視点も立ち上がる。

しかし、その見え方が変わり、混乱し、その見方をした事への後悔の念が押し寄せる。もしこれが現実であったなら時既に遅し。その事実の認識をしっかりしたとして、もう時は戻せない。何とも言えない気持ちになり、それに呼応するかの様に劇中ある音が鳴り響く。何とも言えないその音。そして、物語は...

この映画、元々3時間あったそう。
正直言うと、この構成であればぜひその3時間版で観たかったというのが率直な感想。ただ、監督は迷いなく切った(編集した)そうなので、この終盤に向かう程余白と余韻を感じる作りは意図的なのだと思う。その縮めた事の影響からか、所々誇張的に感じる様な演出も(例えば謝罪途中での飴とか)。それらの演出が都度流れを妨げるブレーキの様に感じてしまい、いらなかった様にも思えた。また、同様に余地を残した映画として今年観た「TAR」があまりに凄い作品だったので、個人的にはこちらが霞んで見えてしまった感もあった。

憶測を呼ぶラスト含め、観た人それぞれの心のコンパスがどこを指しているかで見え方が違ってくる物語。何が正しくて、何が間違っているのか?分かったつもりでいても、それは一側面にも満たない誤認の可能性があるものかもしれない。行動に移さなければ偏見止まり?思ってるだけなら差別ではない?日々の周りの人達とのコミュニケーションの中“だけ”でも感じる生き辛さ。この映画は、ふたりから我々への「君たちはどう生きるか?」という問い掛けなのかもしれない。
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