カツマ

映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズのカツマのレビュー・感想・評価

3.8
真実は無数に貼られた伏線の中。謎という名の藪の先。それは完璧に構築された物語の先の先。明かされなかった真実が、待たれていたかのように解き明かされる。この終着点が本当のラスト?シリーズは更に深いところに手を伸ばしては、樹木の合間から不穏な顔を覗かせる。再びその藪の中に手を入れたなら、新たな謎に出会えるだろう。

今作は大きな話題を呼んだアニメシリーズ『ODD TAXI』の劇場版という触れ込みだが、キャラクターへのインタビュー形式で進む、所謂総集編であり、テレビシリーズほどのサプライズはない。けれども、テレビシリーズで明かされなかったシーンもいくつか追加されており、ファンには嬉しいプラスアルファが盛り込まれている。副題の『イン・ザ・ウッズ』は芥川龍之介の名作『藪の中』から取られており、今作のインタビュー形式もまた『藪の中』を踏襲した趣向となっている。あの完璧だったテレビシリーズに更なる未来があったとしたら?二次創作ではないからこそ、この劇場版を観て再び完結した気分になれた。

〜あらすじ〜

タクシー運転手の小戸川は身寄りもいない独り者。ただ、何人かの友人たちには恵まれており、特に騒動もなくタクシー運転手としての日々を過ごしていた。
だが、そんな小戸川のタクシーに世間を騒がせる失踪事件の少女が乗っていたのでは?という疑惑が浮上。それからというもの、タクシーのドライブレコーダーを巡って様々な人間が小戸川のタクシーを訪れる。完全に巻き込まれる形となった小戸川は、ドライブレコーダーの件でチンピラのドブの計画に関わることになったり、看護師の白川に翻弄されたりと、静かな日常は一変。警察まで介入する騒ぎとなり、小戸川は失踪事件の容疑者として疑われるなど災難は続いた。そんな折、友人の剛力は小戸川の根本的な異変が気になり、独自の調査を開始することにして・・。

〜見どころと感想〜

ストーリーはテレビシリーズを踏襲しているため、すでにシリーズを鑑賞済みの場合は総集編を見せられている気分になるだろう。ただ、『藪の中』よろしく、それぞれのキャラクターにインタビューすることで真実を絞り込んでいく、という手法が大きく異なる点で、インタビューしている側の人物も不明という点も謎めいている。
テレビシリーズのかなり細かい伏線を拾いつつ、YouTubeで配信されていたアナザーストーリーを絡ませることで、シリーズの世界観を更に拡張させるような作りとなっており、例のボールペンのくだりが気になるファンにはモヤモヤを解消してくれる向きもあるだろう。

もちろん配役はテレビシリーズと同様。芸人やミュージシャンを起用しつつも、メインキャストをプロの声優たちで固める、というバランス感覚は今作でも健在だ。テレビシリーズの後に界隈でプチブレイクしたMETEORのラップがまた聴けるのも嬉しいし、EP『2019』の歌詞を読んだ後だと、かつてのドブとヤノの関係性を踏まえながらストーリーを楽しむこともできるだろう。

予習ポイントとしてYouTubeで配信されているオーディオドラマを聴いておくと更に楽しめるはず。エンドロールまでが全て伏線回収なので、最後まで辛抱強く鑑賞することをオススメしたい。ただ、いきなりこの劇場版から入ると訳がわからないうえに、シリーズの醍醐味を俯瞰的に感じ取れない可能性もあり。そのため、テレビシリーズを鑑賞した人向けの作品だと言えるだろう。これにて『ODD TAXI』ワールドもひとまずお終い?それも何だか寂しいので、誰かのスピンオフでも作ってくれませんか?

〜あとがき〜

個人的にも5.0満点をつけたテレビシリーズの劇場版ということで期待していたのですが、内容は総集編、というレビューを見て劇場に足を運ぶのを断念してしまった作品です。インタビュー形式は進行が遅いうえに、シリーズの短縮版という趣で評価が高くないことも致し方ないかなと思いました。

ただ、モヤモヤとしていた部分を解消してくれた、という点においては有難い作品で、特にボールペンの伏線回収とあのラストシーンのその後が描かれていたのは嬉しいサプライズでしたね。

これで本当に終わりなのかな?本当に好きな作品なのでまだまだどんな形でもいいので続いてほしいところです。ホモサピエンスがM-1で優勝する未来とか観たいかな(笑)
カツマ

カツマ