櫻

マイ・ブロークン・マリコの櫻のレビュー・感想・評価

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
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人身事故があって電車が遅れたあの朝、多くの人が会社や学校に遅刻したんだろう。わたしはぎりぎり間に合って、何事もなかったかのように仕事をして、その日1日を終えたっけ。誰かが亡くなった日でも、何事もなかったかのようにあっけなく日々は過ぎていくんだ。そんなことを思い出しつつ、どうしようもなく疲弊してしまった重い身体をぶら下げて、昼下がりに本作を観たのだった。わたしには、この子しかいないと思える友人はいないけれど、シイノがマリコとの日々の追想をするたびに涙が止まらなかった。いいことも面倒くさかったことも全て、現在ではきらきら光る水面のようだよね。ぜんぶ抱きとめていられないのが哀しいくらい。わたしももう死んでしまった人との対話をよくしている。死んでしまった人との時間は、その人が死んだと同時に終わる訳ではない。覚えていられる限り、自分が生きていく限り、続いていく。人は無力さの前では、歯を食いしばることや見守ることくらいしかできない。自分になにかできるだなんて思い上がりなんだよ、と斜め上の方からいつも聞こえてくる。近くにいる人にも、遠くにいる誰かにも。わたしなんてちっぽけな存在でなんにもできやしないんだと、幾度も思い知らされる日々だ。だけど、だからといって自分自身を罰してばかりいてもなんにもならない。わたしはここにいて、どんな気持ちでいるのかはわからないけど、たぶん明日も生きている。早まってはいけない。わたしを誰にも理想化されて泣かれたくないから。お前の涙はわたしを消費するためのものじゃないって思うから。
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