櫻

ウーマン・トーキング 私たちの選択の櫻のレビュー・感想・評価

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誰かを赦すことよりも先に、それぞれが自らを赦すこと。自らのうちにある憎悪も怒りも悲しみもないものとせず、加害してきた対象を簡単に赦さないまま、安全な距離をとってこれからを生きていくことを選ぶこと。

動かぬものとしてあった環境に疑問をもち、これからどう改善していけるのか冷静なまなざしで見つめ直し、もの言うことをゆるされなかった者同士が話し合う様に震わされた。知性とは、なにかを学ぶことやそれを表現する文字の読み書きができることではなく、自分がいる場所をできるだけ遠くから想像して見つめることができることや疑うことができることなのだと思った。

どうしてしあわせな未来を選ぶよりも、不幸な現状維持を貫いてしまう人が多いのだろう。たぶんその場にいない者には、こう思うことは容易い。けれども、自分の身体やこころがすり減っていくのに慣れて傷だらけになったとしても、時間は地層のように壊されることのない壁をつくるから、その現状から逃れるという考えに至ることを遠ざけられることがある。今いる場所を離れることの不安やなにかより悪いことが起こる可能性の方を考えて、その場に留まろうとしてしまう。無言のなか繰り返されてきたこの村での事件を彼女たちは、被害にあった当事者として、村を形成する一員として、これからを生きる子どもたちの保護者として見つめ直し、できるかぎりの光を集めていく。

わたしたちは途上を生きている。それぞれの尊厳を平等視し、ひとりの人間として存在するために教育をしていくこと。彼女たちが自分たちの生きる未来の地続きに、子どもたちが生きる未来が見えていることが素晴らしいと思った。
櫻