櫻

異人たちとの夏の櫻のレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
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生きていることと死んでしまったことの境界はどこなのだろう。幼い頃からずっとわからないのだけれど、夏は死の匂いをとても感じる。

父親が亡くなったのも、夏がその年最後の力を振りしぼっていたころだった。もう恋しくなって泣くことはないが、瞼の裏で父の微笑んだ顔が今でも鮮明に浮かぶ。真夜中に目が覚めて洗面所の鏡を見て、カーテンがたしかにふわっと動いたとき、父が会いに来てくれたのかなと思う。全然怖くはなくて、姿形はどこにもなくても、触れられなくても、なんとなくいるなと思う。会いたい、という思いがこう感じさせているのだとしても。生と死の線引きをしているのは生きている人間のほうで、ほんとうはたしかなものなどないのだろう。

誰ともずっと一緒にはいられない。そのわかりきった結末を、さびしくなって血眼になって書き換えてもきっと同じ。生と死は、それぞれが抗えないいちばん大きなはじまりとおわりとして、わたしたちを存在させている。
櫻