櫻

aftersun/アフターサンの櫻のレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
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ざらついた砂のような青い記憶。大切にしまっておいたはずなのに、それはさらさらと淡くなっていく。もう眺めることのできない父親の背中は、あの時も諦めたようなやさしいような佇まいでわたしの前にいてくれていた。ソフィのまなざしと少し幼いわたしのまなざしとが重なり合い、わたしが不安で仕方がなくて、その背中に甘えて抱きついたことを鮮明に思い出す。どんな顔をしていたかは見えていなかったからわからない。でも、すごくやさしい声で「どうしたの?」と聞いてくれたのを覚えている。あのとき、あなたはどんな気持ちでそこにいてくれたのだろう。答えのない問いをつづけながら、そのお守りみたいな記憶を何度も巻き戻している。鮮やかな青がすりきれて水色になって、やがて透けてしまっても。
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