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コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのkuuのレビュー・感想・評価

3.6
『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』
原題 Call Jane  映倫区分 PG12
製作年 2022年。上映時間 121分。
劇場公開日 2024年3月22日。
女性の選択の権利としての人工妊娠中絶を題材に、1960年代後半から70年代初頭にかけてアメリカで推定1万2000人の中絶を手助けしたとされる団体『ジェーン』の実話をもとに描いた社会派ドラマ。
主人公ジョイを『ピッチ・パーフェクト』シリーズのエリザベス・バンクス、『ジェーン』のリーダー、バージニアを『エイリアン』シリーズのシガニー・ウィーバーが演じる。
『キャロル』の脚本家フィリス・ナジーが監督を務めた。
2022年・第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

1968年、シカゴ。
裕福な主婦ジョイは何不自由ない暮らしを送っていたが、2人目の子どもの妊娠時に心臓の病気が悪化してしまう。
唯一の治療法は妊娠をやめることだと担当医に言われたものの、当時の法律で中絶は許されておらず、地元病院の責任者である男性全員から手術を拒否されてしまう。
そんな中、ジョイは街で目にした張り紙から、違法だが安全な中絶手術を提供するアンダーグラウンドな団体『ジェーン』にたどり着く。
その後ジョイは『ジェーン』の一員となり、中絶が必要な女性たちを救うべく奔走するが……。

今作品は、NHKの特集で、アメリカの中絶をめぐる混乱が起きてるそうな。
なんでも、その報道によると半世紀ぶりにアメリカの最高裁の判例が覆され、中絶を厳しく規制する州が増えたため、追い詰められる人が相次いでるんやそう。
そないな女性の安全な妊娠中絶の権利をめぐる最近の論争を考えると(近代に入りこのトピックは常にタイムリーかと)、今作品の2022年公開はタイムリーな公開と云えるもんやと思う。
また、この題材を扱った映画なら、もっとダークでドラマチックなテイストになると思っても間違いではない。
せや、今作品が中絶に関する他の映画と一線を画しているんは、今作品が確実に提示するであろう真剣な議論や、もう何十年も続いている会話を失うことなく、女性の健康権運動の先駆者たちをハイテンションで祝福している点と云える。
『ハンガー・ゲーム』のエリザベス・バンクスがジョイ役で主演する1960年代の物語。
典型的な核家族の主婦であるジョイは、料理、掃除、子供たちの通学に明け暮れ、弁護士の夫ウィルはサラリーを持ち帰るために "不眠不休 "で働く。
しかし、望まぬ妊娠が心臓病を悪化させ、ジョイの人生はひっくり返る。
彼女が生きるか、赤ん坊が生きるか。
ジョイとウィルの間で交わされた、胸を締め付けられるような、しかし互いの意思決定により、妊娠中絶のケースは、男性医療専門家ばかりで構成される委員会によって決定されることになる。 ジョイは、自分の体なのだから自分の選択であるべきだと理事会に訴えようと努力するも、この時点で、彼女の命を救う処置を違法に行える人物を探し出すことを余儀なくされる。
『コール・ジェーン』として知られる地下サービスは、ジョイをリベラルな女性権利活動家ヴァージニア(『エイリアン』のシガニー・ウィーバー)に紹介する。
ヴァージニアは、手術を必要としている人たちに安全な場所を提供し、正規の医師(彼女たちを助ける金銭的な動機はそれぞれ異なる)に手術を受けさせる。
ジョイにとっては思いがけないことだが、彼女はその後、自分のような立場にある人々を助けたいという意欲と願望に夢中になり、ヴァージニアとともに1960年代のアメリカにおける女性の健康権運動のパイオニアとして先頭に立つ。
今作品は、激動の時代に彼女たちが成し遂げたことを祝福する作品と云える。
今作品は不気味な事件になりかねなかったが、むしろ物語のよりポジティブな側面に焦点を当ててて、困窮時に団結した女性たちのコミュニティを中心に据え、彼女たちを愛情深い人間として描いている。
それは当たり前のことのように思えるけど、軽快で軽いコメディの瞬間が、今作品を楽しいものにしている。
その多くは、バンクスとウィーバーの相性の良さによって感じられるかな。
この物語にショッキングで重い場面があるわけではない。
中絶の場面は、しばしば多くの相反する感情に満ちている。
中絶を選択する女性たちの果てしない道徳観の分裂、そして、中絶に伴う社会的反応への不安。
今作品は、この題材を一度も軽んじることなく、この時代の深刻さと多くの女性に与えた苦痛を常に強調している。
しかし、現実とのバランスを取りながら、思いやりのある軽いトーンで描かれたこの作品の親しみやすさは賞賛に値する。
ただ、残念なことに、この映画は最終幕で破綻する。
ストーリーがあまりにも早くまとまりすぎていた。
ゆっくりとした展開で、若干の繰り返しを感じたり、必要性を感じない脇役のストーリー・アークがあったりする一方で、映画の感情的なクライマックスや明らかになることを、目障りなペースで打ち出している。
登場人物たちが試練にさらされ、移動し、そして5分以内に戻ってくる。
今作品はまた、ラストシーンでの説明的なボイスオーバーで締めくくられるが、これは映画の他の部分よりも安っぽく感じられた。
悲しいことに、それまでかなりまともな映画だっただけに、ちょっと口の中に酸っぱい味が残る。全体として、今作品の大部分は、バンクスとウィーバーの巧みな演技によって支えられており、主題の感情的な重みや深刻さを失うことなく、すべての観客が親しみやすい物語となっていました。
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