マヒロ

透明人間のマヒロのレビュー・感想・評価

透明人間(1933年製作の映画)
3.0
(2024.24)
科学者のグリフィン(クロード・レインズ)は、同僚や恋人にも告げずに突然姿を消してしまう。実は彼は研究室で密かに透明になる薬を開発しており、自らを被験体にしてそれを成功させていたのだが、解毒薬が出来上がっておらず透明のままになっていた。田舎町に身を隠して薬を作り上げようとするが、副作用により性格が凶暴化したグリフィンはトラブルを巻き起こし……というお話。

透明人間を題材にした作品は、透明になって困る様を描いたカーペンターの『透明人間』、ゲスい欲望剥き出しになるヴァーボーベンの『インビジブル』、被害者目線から追い詰められる様を描いたリー・ワネルの『透明人間』なんかを観てきたが、この中でも一番変なヴァーホーヴェン版が原典たる今作に似ている感じがするのが面白い。
今作の透明人間グリフィンは最初から既に透明化して時間が経っている状態で、既に副作用で性格が荒くれており「この力で世界を征服できる」と誇大妄想じみた野望を抱き平気で盗みや殺人を犯してしまう。観客側からすると正常なグリフィンの姿を見ることがないので、本当に薬の影響でおかしくなっているのかがよく分からないが、そもそも透明薬も研究室の薬品を勝手に持ち出して作っていたらしいので、副作用云々は関係なく問題のある人間だったんじゃないかという気はする。

透明状態の特撮は今の時代見ても遜色ないレベルで、言われなければどういう技法で撮ったのか分からないレベル。姿を隠すためにフェドーラ帽を目深に被りコートを着込み、顔にはデカいサングラスとぐるぐる巻きの包帯というビジュアルもなかなかのインパクトで、冒頭で雪深い町の酒場に現れるシーンの異質さはめちゃくちゃ格好良い。 

当然人間が透明になるという前提すらない世界の話なので、好き勝手やるグリフィンを捕まえようとする警察もてんやわんやになっており、編み出したのが「全員で手を繋いで包囲する」というユルユルの作戦だったのが素朴すぎて良かった。案の定抜け出されてボコられたりしているが、グリフィンも大概で逃げついた先が雪深い場所だったので足跡ですぐバレるなど、皆ちょっと抜けている気がする。ここら辺の場面の滑稽さも含めてコメディっぽく撮っている節もあるようにも見えるが、真面目にやってるかどうか微妙なところ。
有名作品の映像化の原典としては、透明化の映像や欲望でおかしくなっていく人間など所々ツボは抑えた作品で楽しめたが、時代が故の物足りなさも同時に感じてしまうところもあった。特に最初と最後、グリフィンが透明になる前と、いよいよ正体がバレてからの攻防とかはもっと見てみたかった。
マヒロ

マヒロ