マヒロ

ファースト・カウのマヒロのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.0
(2024.30)[6]
西部開拓時代、毛皮のための狩猟グループの一員として働くもののいまいち馴染めずにいた元コックのクッキーは、たまたま出会った中国系移民のキング・ルーと意気投合し行動を共にすることになる。同時に、町の有力者が当時珍しかった乳牛を連れてきたことを知った二人は、牛からミルクを盗み出し、クッキーの料理の腕を活かして焼き菓子を作って売ることを思いつく……というお話。

“カウボーイ”という言葉は、西部開拓時代に大量の牛を移動させるために過酷な道のりを往く男達のことだったというのを聞いたことあるけど、今作はタイトルの『ファースト・カウ』が表すようにまさに牛が一大ビジネスになりつつあった頃の黎明期の話と言える。西部劇でありがちな荒野を馬で駆けたり銃撃戦をしたりといったマッチョなイメージとは異なる、アメリカン・ドリームを夢見て細々と暮らしながらビジネスのチャンスを伺うという、激動の時代に名を残さなかった人に目を向けた作品になっていた。

クッキーは動物の狩りにも控えめな優しい男で、ルーも中国系という出自から肩身の狭い思いをしながら一攫千金を狙う強かさもあり、お互いにないものを補い合いながら生活していくことになる。何となく『ブロークバック・マウンテン』や『真夜中のカーボーイ』みたいな男同士の特殊な共同生活を描いた作品を思い出したが、それらほど劇的ではなく、淡々と二人の暮らしを切り取っていて、結末こそほろ苦さはあるものの基本的には心地良さすら覚える平和な空気感がある。
森から聞こえてくる環境音や食事なんかの生活音が心地良く、おまけに夜のシーンもほぼ自然光で撮っているのか真っ暗な場面が多くて、焼き菓子作りに取り掛かるまでの序盤はだいぶウトウトしてしまった。一番雰囲気が近いなと思ったのはゲームだが『レッド・デッド・リデンプション2』で、あちらも西部開拓時代の話で基本ドンパチやる話なんだけど、一方で主人公が料理したり食事したりする場面は結構細かく描かれていて、肉を焼いたりコーヒーを挽いたりする様に時間を割いている。ゲームのシステム上、回復アイテムは即時使用というのが基本の中であえて食べるための準備をする操作があるというのは手間だけ考えたら無駄にも見えるんだけど、この細かさがキャラクターに息を吹き込むような感じで生きた存在としてより感情移入しやすくなるんだけど、それと同じように主人公の二人の生活をじっくり見ることでより近い存在のように感じられた。

普通の映画では脇役にすらなり得ないような人々にフォーカスする細やかな視点と、それを飾り立てすぎずに描く繊細さ、そこに「ミルク泥棒でドーナツ作り」というキャッチーな展開があることで一山あって観やすくなっていて、個人的にはかなりツボに入った作品だった。
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