Omizu

ハッチング―孵化―のOmizuのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
5.0
サンダンスで話題になった北欧ホラー。謎の卵を拾った少女は密かに育てるが、その卵はどんどん巨大化してきてしまい…という話。

北欧は『ぼくのエリ』『ボーダー』など一風変わったホラー、スリラーを生み出し近年界隈では注目されているが、本作も期待を軽く超えてくる傑作だった。

寓話としても、そして正統派ホラーとしてもめちゃくちゃ面白い!

冒頭で極度に「キレイ」に取り繕われた家庭を描き、そこに突如迷い込んでくる鳥が「一見平和な家庭」をかき乱す。そしてその後の母の対応が既に今後の展開を暗示していた。

少女の部屋では鏡を効果的に用いてあのクリーチャーの二面性、そして少女の二面性、二つが同体であることを視覚的に示している。

毒親映画、怪物映画、寓話的映画、乗っ取られ映画とどの言い方もできるのがスゴイところ。

娘は母親の「完璧な家庭」のための道具でしかなく、その「完璧な家庭」は一皮剥けば非倫理的で不条理で残酷。母親は恐ろしいし狂っているように見えるが、彼女は彼女で後悔の念に取り憑かれ気の毒でもある。

押し殺してきた本当の自分が道具としての自分を文字通り殺すことで、親にとって保護すべき子供から大人になる。途中父親がベッドの上の血を見て察したようになるけど、ジュリア・デュクルノーのように通過儀礼としての生理のメタファーともとれる。子供が自分の知ってる子供でなくなること、それは親にとっては恐怖だろう。

いくらでも読み解き可能で何度でも見たいし、単純にホラーとしても残虐描写満載でめちゃくちゃ楽しい。そして少女の部屋などインテリアも素晴らしく見ていて楽しい。撮影もとても美しく、肝心なシーンでカチッと決まった絵面を見せてくれるのでアート映画としても満点。

役者さん、一人二役の娘さん役もいいけど母親役の女優さんがサイコー!ある種戯画化されてはいるが、どことなくトニ・コレットを彷彿とさせる。美人ではあるけどどこか角ばった、見方によっては怖い感じが素晴らしい。普通に笑ってるだけなのに超怖い。

久々に大当たりに出会えた。間違いなく今年ベスト級の傑作!
Omizu

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