ハッチング-孵化-
北欧フィンランドのとある街。12歳の少女ティンヤは、母親を喜ばすために、自分の感情を抑え込みながら毎日を過ごしていた。そんなある夜、彼女は森で奇妙な卵を見つけると、家族には内緒で自分のベッドで温めることに。
冒頭、背骨が浮き出たレオタード姿の少女に異様さを感じたかと思えば、すぐに一見すると平穏な家族の歪さが浮き彫りに。これは "ただの映画ではないぞ" と、オープニングから気持ちが高まる。
日常の平穏さとスリルな場面との抑揚が絶妙。作り自体はホラーだが、グロさが強調されたホラーではなく、人間の奥底に潜む闇に焦点を当て恐怖を描き出すホラーで、そこにダークファンタジー的な要素や残虐さもしっかり加わる構成。北欧の美しい風景やお洒落なインテリアが、恐怖をいっそう際立たせる。
ラストは強烈なインパクトを残し、ホラー映画としてはこれ以上ない最高の結末で、その後この家族がどうなったのか気になるところ。86分という短い時間でコンパクトに纏め上げた、新鋭女性監督のセンスが光る。
毒親を演じたソフィア・ヘイッキラの演技が素晴らしく、全く心の通っていない "不自然" な母親を "自然" に演じ切る。そしてティンヤを演じたシーリ・ソラリンナが、闇を抱えた少女を繊細に演じ、ラストの彼女の見せた表情が今も頭から離れない。
余談だけど、作中に出てくる小物にも注目して観てほしい。フィンランドらしくムーミンのコーヒーカップがさりげなく出てくる。