マサキシンペイ

NOPE/ノープのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.2
ハリウッド映画を支えるタレント馬の調教を家業としてきた黒人一家。彼らの牧場に忍び寄る正体不明の影。

新進気鋭のジョーダン・ピール監督、話題の新作。

B級パニックスリラーとしてはそこそこ楽しんで観られるが、冒頭の旧約聖書からの引用(力や脅迫での支配は必ず報復として返ってくることの教え)や人種差別の歴史的な文脈で解釈すると、壊滅的に失敗していると思う。

「支配層-被支配層」という構造として(ハリウッドの)「白人-黒人」と「人間-動物」を類比的に精緻に描き問題提起とした上で、その枠組みから止揚しうる「調教師-馬」という関係の特殊性に着目し、「得体の知れないモノ」とどのように対峙していくのか、が本作のテーマとなるはずである。


しかし、本作の悪役(というか悪例)を司るのがアジア系俳優である時点で、テーマが濁っている。
世界初の映画作品の演者は黒人であるとする主張と、白人だらけのスタジオで邪険に扱われうだつの上がらない主人公との対比を、序盤で効果的に構成した以上、この作品は人種差別の問題を描くことから逃げられない。
つまりアジア人をヒール役で配することは、ノイズにしかなっていないのである。

なおかつ、結局「得体の知れないモノ」との関係性は「調教師」という特殊性を帯びた概念とは無縁に、どのように危機から逃れるか、あるいは討伐するかというモンスター映画の表層的な描写に終始している。

なぜ、主人公が「ハリウッド用にタレント馬を育てる調教師の黒人」という非常に把握しづらいアイデンティティの設定なのか、脅威となるのが未確認生物なのか、という意図が、まるでわからない。伏線が全く活きていない。


また、単純なモンスターパニックものとして観ても、モンスター攻略の条件の描き方が雑で、クリーチャーコンテンツへの愛着が感じられなかった。
マサキシンペイ

マサキシンペイ