マサキシンペイ

花束みたいな恋をしたのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.0
押井守との遭遇から始まる恋。
リアリティが強すぎて2021年現在に20代後半のサブカルチャーファンにしか脚本のディテールが伝わらないながらも、だからこそ鋭利で胸を抉る秀作ラブストーリー。

自身のセンスに自信を持ち、文化的趣味を探求する「オタク」な大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。
推している芸人、観ている映画、聴いている音楽、読んでいる小説。その全てが合致することで運命を感じ、二人は強く惹かれ合う。
しかし社会人となって、麦は「二人の生活」を維持するためにハードワークで忙殺されて趣味を楽しむ心の余裕を失っていき、絹は「二人の生活」を維持するために残業の無さそうな仕事を選び趣味を続けようとする。
次第に二人の関係性に対して互いの想いがすれ違っていく。


文化的趣味を持ち、造詣を深め続けるということは、実存的解釈として社会に対する間接的な闘争である。
文化的趣味は、職業として選択すれば、例えば駆け出しのイラストレーターは薄給で買い叩かれる運命と戦うことを余儀なくされるし、余暇として選択すれば、労働を終えた後の時間と体力との戦いになる。

労働を免除されたモラトリアムにおいて、その有り余る時間と体力を、文化的趣味の深化へ費やしたことに対する誇りを共有した二人の関係性は、恋愛感情である以前に、言わば社会への反骨精神の同志としての絆を核としているのである。

つまり、二人の関係性の断絶は、失恋であると同時に、社会に対する敗北を意味している。
恋人としては終焉を確信しつつも、同志として敗北の悲しみを分かち合う最後の熱い抱擁は、マゾヒスティックな感性であるがひたすらに美しかった。
マサキシンペイ

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