マサキシンペイ

スリー・ビルボードのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.2
人間は弱く、正しく在れない。
静かで苦いヒューマンドラマはイーストウッドのそれを彷彿とさせた。

アメリカの田舎町。
娘を強姦殺人により失った母。しかし捜査は遅々として進まず、その怒りの矛先は地元警察へと向かう。

『スリー・ビルボード』
警察を挑発するために、路肩の三枚の看板が書き換えられた。

取り上げるマスメディア、騒然とする地域住民。

これを受けた警察は、事件の解決よりもむしろ、看板を取り下げさせるために躍起になる。

母のミルドレッド、レイシストで素行の悪い警官ディクソン、警察署長のウィロビー。
主要キャストの3人はいずれも、本心では自身の判断が正しく無いことを分かりきっている。
しかしどうすれば正しかったのかは分からず、否、分かっていながらそれが実現できない自身の弱さに気付いているが故に、意固地になって判断を改めることが出来なくなっている。

本当はしなくてもよかった、しない方がよかった無益の争い。

互いの衝突と、自責の念は、意志を強めるほどに加速し、人間を砕いていく。


物語に息を吹き込む「犯人」というキーパーソンの不在によって、物語が停滞して消化不良を起こし、登場人物が窒息し朽ち果てていく様をこそ描く、というストーリーテリングの逆転の発想によって光る名作。
マサキシンペイ

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