マサキシンペイ

ミッドサマーのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.7
白夜のスウェーデンを舞台に、閉鎖的なコミュニティの奇祭を描くホラー。
傑作『へレディタリー/継承』に続き期待が高まるホラー界の新星、アリ・アスター監督の意欲作。おぞましいシーン全てに花と日光が降り注ぐ、他に類を見ない麗らかな恐怖演出の連続。

今作を観て、ホラー演出というより、美術や音響の独創にこそ、彼の作家性が安定して表れていると感じた。

本来目を覆いたくなるような惨劇も、カメラワークや色彩感覚がとても洗練されていてしげしげと見つめてしまうほど、画の作りが美しい。
”肉”を、単にグロテスクな演出上の道具ではなく、造形芸術として構築していることがしっかりと伝わってくる。どことなくルシアン・フロイドやジェニー・サヴィルの人物画を彷彿とさせて個人的には大変好みだ。

今作ではさらにサイケデリックな演出を取り入れて面白い。というよりも、今作でやりたかったのはホラーよりもサイケデリックへの挑戦だったのだろう。
そのうえでBGMは勿論、籠もりや無音の間を多用した音響が非常に効果的だったと思う。

反面ホラー要素も期待していた分、今作の仕上がりに、彼は万能なホラーメイカーではないのでは、という印象を覚えた。
前作の『へレディタリー/継承』から一貫してモチーフは宗教的背景を伴うオカルティックな儀式であるが、その異常性の核心が、超常現象か、人為的なものなのかで違いがある。
つまり、前作は信仰の対象そのものの実在を描いた作品であるのに対し、今作は信仰が生活にもたらす効用を描いた作品である。
すなわち、前作は神ー人の神秘の物語であるのに対し、今作は人ー人の教会内の関係性に収まってしまう物語である。
さらに抽象化すれば、前作はファンタジーとして「あり得るはずがないこと」が起きることで恐怖が発生しているのに対し、今作はリアリズムとして「あってはならないこと」が起きることで恐怖を生んでいる。

どちらが一般に恐怖演出として優れているかということは問うことが出来ないが、アリ・アスターはファンタジーの方がより強烈な個性を発揮できる作家ではないかと思われる。
マサキシンペイ

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