マサキシンペイ

パラサイト 半地下の家族のマサキシンペイのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
3.9
パルムドール獲得の話題作。しかし注目すべきはポン・ジュノ監督のみならず、21世紀以降の韓国ではこのレベルほどの作品があらゆるキャストの手でゴロゴロ量産されているから恐ろしい。

コメディとシリアスがユニークなバランスで衝突する今作。ハイクオリティな佳作なのは認めるものの、個人的にポン・ジュノのベストの完成度とは言い難い仕上がりだった。

芸術的価値というのは本質的に存在せず、単に身分や階級を峻別するための目印として芸術は存在している、というようなブルデュー的な風刺が冴える序盤~中盤のコメディパートは鮮やか。

と言いながらも、舞台となる住宅の洗練された建築美がこの作品の価値を支えている。
特に、貧困層の生活を飲み込む洪水をもたらした嵐が、この家に住むと庭園の一つの趣として変換されて楽しめてしまうという対比で、貧富の差を象徴的に示しており巧い。

富裕層の生活の描き方もディテールが豊かでリアリティに溢れ、その生活ぶりが単に貧富の差を描いたストーリー構成上のピースに留まらない表象的な魅力となっている。


ただ、その上で問題を感じたのは暴力描写である。韓国映画のアイデンティティは、周知の通りバイオレンスにある。
ところで、優れた暴力描写に必要なのは、手段の質よりも、エモーショナルな動機なのではないか。個人的には、暴力そのものよりも、暴力に至ってしまう理由こそ、バイオレンスシーンの肝要だと思っている。
その点で今作の怒りの最高潮としての惨劇に対して動機の描き込みがかなり弱く、同調出来ずに単に痛ましく感じられる造りとなった。
「貧困層の怒り」を描いたにしては、貧乏家族も裕福家族もリアルで、それなりに仲良く、それなりに人も善く、それなりに楽しげに見えるように作られているせいだ。
両者の衝突があまりにも不条理に感じられる。

しかし、それはどちらの生活にも実感を持って描けるポン・ジュノの手腕が活きているからこそなのだ、贅沢な副作用である。
コメディとしての娯楽性を詰め込んだ代償として、社会批評としての切れ味が鈍くなってしまった印象である。アジテートに成功すれば良いという問題ではないが、このあたりは同時期に「貧困層の怒り」をストレートに描いた『JOKER』の方が強く胸を打たれる作品だったと言わざるを得ない。
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