マサキシンペイ

マリッジ・ストーリーのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.5
Netflix制作の話題作。

個人的に夫婦の不和をテーマに据えた作品は苦手である。戦争映画やホラーの幾倍、精神を消耗する。
鑑賞に際し、全体のストーリーテリングの技巧よりも、登場人物への感情移入に視点が引っ張られやすく、僕が映画鑑賞に本来求めている体験とは別のモノを味合わされる傾向が強いためだ。また、その感情移入が同性の登場人物に限定されがちになってしまうのも、その息苦しさに拍車を掛けてしまう。そして恐らく、こういった志向においてはその傾向が強い作品ほど、男女の心情描写の書き分けが優れているのだと思えるところも腹立たしい。

この点で今作は傑作と言える。

「男性として」の作品鑑賞を余儀なくされ、夫のチャーリー(アダム・ドライバー)と共に心を痛め、妻のニコール(スカーレット・ヨハンソン)の言い分に、案の定同情できなかった。
恐らく女性が見れば逆のことを言うのではないか。
なぜ争っているのかが誰も掴めなくなってしまう、この視界の悪さ自体を描写していることが、夫婦が離婚へと向かうリアリズムなのだろう。

加えて今作は、単に夫婦の心情描写が優れているだけではなく、結婚制度そのものについての批評性も備えている。
描かれる夫婦は実際のところ、そこまで憎しみ合うほどの関係性には陥っていない。
離婚を決意してからも、互いの仕事の栄転は称えあうし、互いの離婚後の生活を慮りもする。
恐らくは結婚や離婚が持つ、契約的側面において共同生活の不可能が訪れているように見える。
それがなければ、もしかしたらパートナーとして関係を継続できたのかもしれないし、別れる際にここまで擦り切れることもなかった。
離婚に至った夫婦の複雑で繊細な関係性の機微の描写は、過去に類を見ない精緻さを持っている。
マサキシンペイ

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