マサキシンペイ

ダークナイトのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

ダークナイト(2008年製作の映画)
3.8
「ジョーカー」というキャラクターの魅力が最も鮮やかに描かれた映画。
非常にファンが多く評価も高い今作だが、個人的にはジョーカーを演じたヒース・レジャーの夭折によって伝説化され過大評価されている作品のように思える。

ヒース・レジャーはまさに怪演。
どこまでが本気で、どこからが冗談か、わからないうちに引き込まれていく。力強い犯行の節々で軽薄な仕草を挟み、全てをジョークとして楽しんでいるというキャラクターディテールが、この上なく再現されている。

苦悩するヒーローとしてのバットマン、絶対悪としてのジョーカー、正義漢から堕落してしまうハービー・デント、という対比の構成もうまい。



しかし、個人的には不満点も多い。

バットマンがヒーローとして咎を背負うことになるのも、ハービー・デントがトゥーフェイスに変貌を遂げ悪の道に進んでしまうことになるのも、ヒロインであるレイチェルが原因であり、ある種のファム・ファタールとしてレイチェルは非常に難しく重要な役どころであったが、今作での彼女の魅力は薄すぎるように思える。
ヒロインの印象がほとんど残らない。

あと、細かい脚本の不備も感じられる。

ジョーカーは、何か大きな目的の手段として悪を為すのではなく、悪を為す為に悪を為す、純粋な悪人である。
つまり手段こそが目的であり、何を為すかよりも、どう為すかを、行動原理の軸とするキャラクターのはずである。

それは台詞からも窺える。
彼は、時間をかける方が相手の本性を垣間見える、という理由から、銃よりもナイフを好んで使うらしい。
しかし今作の暴力描写は、銃で一撃がほとんどである。アクションの説得力としてそうならざるを得ないことは理解できるが、暴力性の質が、ジョーカーの心理描写の割にはアッサリし過ぎていて府に落ちない。
凶行を心から楽しんでいるという論理的な説明が、構成上「バットマンは殺さない」の一本槍であり、どうも決定打に欠けている。
150分の長尺を設けるならば、ナイフで相手を嬲る強烈なシーケンスを一つでも入れた方が、ジョーカーというキャラクターの奥行きはより広がったはずである。
マサキシンペイ

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