great兄やん

聖地には蜘蛛が巣を張るのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.1
【一言で言うと】
「清く正しい“害虫駆除”」

[あらすじ]
イランの聖地マシュハドで売春婦連続殺人事件が発生する。「街を浄化する」という信念のもと、犯行を重ねる殺人鬼“スパイダー・キラー”に人々は恐怖を抱く一方で、犯人を英雄視する市民も少なからずいた。そんな中、事件を覆い隠そうとする圧力を受けながらも、女性ジャーナリストのラヒミは臆することなく事件を追い始める...。

殺人が“正義”として罷り通るという救いなき絶望。アスガー・ファルハディ作品のような切れ味鋭い社会批評とサスペンス要素を兼ね備えた、まさにあらゆる“タブー”に切り込んだ秀作だと思う。
『ボーダー 二つの世界』のような尖った世界観を描く監督かと思いきや、まさかこういったトーンの違う映画も撮れちゃうとは...恐るべし、アリ・アッバシ監督(・・;)

とにかくゾッとする。下手なホラー映画を観るよりもリアルな冷や汗が伝う怖さがこの映画にはあるし、何よりも実話ってのが本当に怖すぎる。
売春婦を聖地の“不浄”として、それを“浄化”という大義名分で殺人を犯す動機も狂ってますし、それを“英雄”として神格化する民衆もまぁ胸糞悪かったですね...

それにストーリー展開もかなり大胆かつ見事で、サスペンス映画の核でもある“犯人の正体”をあえて序盤から明示する事で宗教とミソジニー(女性蔑視)の“醜悪な”構図を俯瞰で描写する技量には観ていて唸るばかりでしたし、イランに住む女性、それも社会的に力が弱い女性の“人権”すらも踏みにじるイラン全体の社会構造の批判として観ても、監督の強い意志というのが深く突き刺さってくる。

それからジャーナリストであるもう一人の主人公・ラヒミを演じた女優も鬼気迫る力強い演技力でしたし、実際に“そういった”問題に巻き込まれたからこそ伝わる説得力というのも半端ない。まさに過去の“怒り”を体現するかのような凄まじい存在感と表現力でしたね🤔...

とにかく“浄化”という名の私刑は果たして神の名の下では赦される行為なのか?蜘蛛の巣の如く張り巡らされているイスラム教に根付く“闇”に、己の倫理観が無意識に麻痺する一本でした。

売春婦に悪意を向けてもそれを“買う”男どもはお咎め無しというイランのお国柄にも腹が立ちますし、そもそも今作をイラン国内で撮影許可が降りなかったという時点である意味“お察し”の所でもありますよね😔...

淡々とした展開であるため起伏の多いサスペンスを求めるのであればかなりお門違いな作品ではあったが、それでもじっとりと纏わりつく怖さが伝わってきたし、特にラストシーンがもう強烈。殺人鬼の“系譜”はやはり血縁であるが故なのか…という暗澹とした絶望を抱えました(・・;)...